top of page
​渇きの欲

決してそれが日常ではないけれど、たまには刺激が欲しい、と思ってしまうことは悪いことではないと考えている。
 その刺激とやらを一度味わってしまうと、なぜかもう一度、と望んでしまう人の欲求と探求心にワタシは素直な方だろう。
 なぜ、とは最高の難題だ。
 そのなぜ、をこの青年、アゼムに向けていた。
「で、それでキミはここに逃げてきたわけだね、アゼム」
 最後の文章を読み終わると、ヒュトロダエウスは書類の空白の枠に否の印を押す。これで本日の提出された創造動物に関するイデアの是非を問う書類の山をやり終える。最近の関心は水棲動物の飛行、なようでどれもこれも競って空を飛ばせようとしていた。
 創造動物管理局、局長であるヒュトロダエウスはさまざまなユニークな創造動物を見てきている。学者、という生き者たちは誰が一番優れた創造動物を自身の手で創り出せるか、というこだわりに闘志を燃やしているようだ。
 ヒュトロダエウスはようやくデスクワークから解放されて、両腕を上げて大きく背筋を伸ばし、ソファに転がっているアゼムを見た。
「エメトセルクがさっさと報告書の修正版を出せ、て煩いんだ。このままだと一晩張り付いて書き上げるまで寝かせてくれないかもしれない」
 そんなひどいことってある?、とアゼムは唇を結び、眉間に皺を作ってエメトセルクの憤慨する顔を真似するとヒュトロダエウスはけらけらと笑った。
「だからヒュトロダエウスのところに逃げてきた」
「彼のことだからワタシのところに来てもすぐ見つかってしまうかもれないよ」
 アゼムがどこに隠れているかなんてエメトセルクにはお見通しだろう。しかしアゼムはにやり、と笑って、
「それはヒュトロダエウス次第かな」
 と、意味深な言葉を投げる。
 ヒュトロダエウスはその意味をすぐに察すると肩を竦めた。つまり親友である自分のことを匿ってくれるだろう?という悪知恵だ。
 アゼムはヒュトロダエウスなら自分を突き出すなんてことはしない、と信じている。それは嬉しいことではあるが、この後怒られるのは自分である。アゼムの肩を持つならお前も同罪だ、と言って眉尻を吊り上げて怒鳴るエメトセルクが簡単に想像できる。
 いつものことではあるが、ヒュトロダエウスはふいに先日の長くて短い宵の出来事を思い出す。
 酔っぱらっていたとは言えど三人で何をしたのか。
 酔いにも痴れて快楽にも陥って貪欲に何を味わったのか。
 思い出すだけで喉が渇く。初めて触れたあの熱は特別だった。
 アゼムはそんな夜のことなど忘れてしまったかのように、こうしていつものように変わらず警戒もすることなくワタシに隙だらけで擦り寄るのだ。
 ヒュトロダエウスは席を立つとアゼムが横になっているソファへと腰かけ、無防備にしている彼を覗き込む。
 また食べてしまっていいだろうか、と魔が差す気分だ。
 アゼムが悪いのだ。人の気も知らないで迂闊にも二人っきりになるからと言い聞かす。
 肩からラベンダー色の緩く編まれた三つ編みが零れ揺れるのをアゼムは目を丸くして見ていた。
「キミは少しもワタシのことを疑っていないんだね」
 薄い影が出来たことでアゼムは笑っていた顔を少しだけ、強張らせた。いつものにこやかに笑うヒュトロダエウスと同じように見えはしたのだが、その瞳の中に灯るものが何なのかを思い出してしまう。
 忘れたわけではないが、あの夜の熱はたった一度のちょっとした余興みたいなもので自分たちの関係も変わらないし今後望むようなことでもない、と思っていた。
 しかし見下ろしてくるヒュトロダエウスの眼はどうだろうか。明らかに孕んだ熱をアゼムに向けている。
 何を望まれているかなんて明白だ。
「ヒュトロダエウス、」
 あっ、と思った時にはもう遅い。ヒュトロダエウスはアゼムに覆い被さり抱き締めると、鼓動を重ねた。早く打つその音はずしりと重い。
「ワタシはあれからね、キミと繋がったことが忘れられなくて、またキミとそんな時間が過ごせたら嬉しいなぁって、考える日々なんだよ。キミはエメトセルクのものだから……、けどワタシだってキミのことが大好きなんだ。そんなワタシの前で無防備にされたら困るなぁ」
 アゼムは身体を強張らせていたが、ヒュトロダエウスの手のひらが意図を持って肩から腕、手を掴んでその温かく柔らかい手のひらへキスをした。
 思わず心臓が跳ね上がるほどにその唇は熱かった。
 無防備、にしてつもりはない。アゼムはいつも通りに接しているつもりではあった。三人で痴れた情事を過ごしてしまったが、だからと言ってヒュトロダエウスが嫌いになるわけでもない。彼は大事な友人の一人なのだから。
むしろあの夜は刺激的で良かったな、とさえ思う。
「あ、いや、そのヒュトロダエウス、そんなつもりじゃあー」
 しかし、確かに、三人で何も考えずに身体を繋げて気持ち良くなったけれど、ヒュトロダエウスを惑わすことはしてない、とアゼムは慌てて吐こうとしたけれど真剣に見つめる瞳に声を噤んでしまった。
 ヒュトロダエウスは顔を寄せてその吐息を頬にかけると、アゼムの身体がびくりと小さく震える。
「ヒュトロ、だめ、だって」
 触れそうになった唇にアゼムは手を挟んで防いで狼狽した声と青い視線を彷徨わせた。だがヒュトロダエウスは目を細めて微笑むとその手を取って指先から唇をあてて息を吹きかける。
「大丈夫、キミは言ったでしょ?ワタシ次第だって」
 ここにエメトセルクが来ないのはヒュトロダエウス次第、と言った言葉をアゼムに返せば彼の耳が赤くなった。何を気にしているのか彼はわかっているのだ。
 ああ、と嘆息しあの時とはまた違う愛しさが募るとヒュトロダエウスはアゼムの小さな抵抗と抗えない欲求に染まっている姿に疼く熱を止められない。
 エメトセルクのことを愛していながらも、彼は自分から求められることを完全に否定できないのだ。アゼムもまたあの夜に知った熱を求めているに違いない。
 なんと淫らで素直で綺麗な色の魂だろうか、と感心してしまう。
「ヒュ、トロ──」
 名前を呼んで息を吸い込めば、その微かに開いた唇を逃さずヒュトロダエウスは優しく塞いだ。
 吸い込まれるように重なった唇にアゼムは目を閉じて受け入れる。あの夜は頭の中がずっとぼやけていたが、今日は酔っていないせいかはっきりしていて唇の感触と熱が伝わってきて、アゼムは身体を緊張させた。
 ちらりと舌先を出して歯列をなぞり、こじ開けさせると差し込んで上顎の薄い壁を摩った。
「あ、っう」
 アゼムは声を漏らしてヒュトロダエウスの肩を掴んだ。覆い被さり圧し掛かっている身体を退かそうと思っても力は入らない。
 まともにやればアゼムの方がヒュトロダエウスより何倍も強いだろう。しかしヒュトロダエウスから与えられる口づけはエメトセルクとはまた違うねっとりしたうねる熱さだ。それが身体に循環しているエーテルまで喰われるような、そんなぞくぞくと粟立つ恐怖にも似たもの。
 ヒュトロダエウスの両手が頬に添えられて、そのまま唇を食まれアゼムは誘われるままに口腔に入り込んできた舌に舌を絡ませていた。
 生温かく湿った表面の粘膜を擦り合わせて時折吸われると、腹の中が熱くなってくるのを感じてしまい、思わず股を閉じたくなってしまう。
「おや?もうそんなに感じているのかい、アゼム」
 はあ、とヒュトロダエウスも蕩けた吐息を零してそう問うとローブの上から下腹部へと手を這わせた。
「あ、待って、だめだって、ヒュトロ、っ」
 自分のそれはもうはっきりとわかるほどに膨らんでいる。触れられれば呼応するようにまた大きくなってしまうのが恥ずかしくてアゼムは前歯を食いしばった。
「ヒュトロダエウス、俺が、悪かったから……」
 君に変な気を起こさせてしまった、と謝っているつもりらしいがヒュトロダエウスは止める気はない。
「大丈夫、エメトセルクには黙っていてあげるし、また三人でもしようね。アゼム」
 このにっこりと悪気も後ろめたさもない笑顔が逆に怖い、とアゼムは血の気が引く気分だった。ある意味エメトセルクのような気難しい人間ではない分、厄介なのではと思ったがこの状況ではもうそんなことはどうでもよかった。
「そういう、問題じゃ、」
 ない、という口を塞ぎながらアゼムの上半身を引っ張り起こすとローブの紐に指を絡めてチャックを下ろしていく。
 やめないと、と思う思考の中でアゼムはそれと同時に支配されていく欲情に溺れていくのをやめられなかった。
 ヒュトロダエウスの甘くて優しい声に大丈夫、と言われるとこのまま広がる熱を預けてしまっても構わないと錯覚していくのだ。
「うっ」
 ヒュトロダエウスの細長い指が肌に触れてくると、点々と熱が籠っていく。その指がアゼムの腰を抱くとさっきよりも荒く口づけて彼の意識を白く溶けさせていった。
 アゼムはなんとか剥がそうと思ってもその手は腕に縋るだけで、口腔を縦横無尽に舌が這いずり回ると力が抜けてってしまう。
 こんな優男みたいな顔をしているというのに、やることと言えば雄としての性欲をまっすぐにぶつけてくる仕草をする。なんだかふと創造動物管理局の職員の女性陣が噂をしているのを聞いたことがあった。
 ヒュトロダエウス局長はああ見えて男前だと。
「あ、っふ……ひゅ、ト」
 また待ってくれ、と互いの口元に透明な糸を引かせながら喘ぐが、ヒュトロダエウスは微笑んで、またアゼムの唇を情熱的に食べた。
 ぐっと抱き寄せられると彼の股間にあるものが自分のものにもあたり、アゼムは思わず息を飲んだ。自分の膨らみがもうはしたない形を成しているように、ヒュトロダエウスの熱も布の上からでも擦れば硬く、雄としても主張をしている。
 ヒュトロダエウスはわざとそれがあたるようにして向き合って抱き締め、欲情に満ちた熱をアゼムヘアピールする。
 どくどくと波打つ鼓動の音が身体の中から外へと飛び出している。
 ヒュトロダエウスはアゼムのはだけたローブを肩から腕へとするりと脱がせ、ズボンをも引っ張ると彼を生まれたままの姿にしてしまう。
 少し日焼けしたその肌は自分と違って健康的だった。
 どちらかと言えばヒュトロダエウスの方が色白で細身だ。しかし欲情は抱かれるよりアゼムを抱きたい、という方が遥かに強かった。
 ソファの上で全裸にされて、アゼムは思わず身を丸めようとするがヒュトロダエウスの手が下腹部からもっと下へと下りてくると、身体の筋肉は強張ってしまう。
「うっ、ぁ」
 焦げ茶色の薄い茂みに触れて、ゆっくりと屹立したペニスをヒュトロダエウスが掴むとアゼムは低く唸る。
 触れられたそれは熱く火照り、先端から透明な雫を少しずつ零し始めていた。
「アゼム、キミは本当に感じやすいんだね。頭の中でどんな想像をしたんだい?」
 ぎしり、とヒュトロダエウスがアゼムの身体の上に覆う被さり耳元で囁く。
「あの夜のこと思い出しちゃった?」
 熱くて溶け合った熱帯夜を思い出していない、と答えるのは嘘だ。
 ヒュトロダエウスの輝く紫水晶より明るい双眸は艶を持ち、アゼムに発情する。アゼムもその色に感化されて身体の中から沸き起こる欲に逆らえなくなっていく。頭の中で分泌されているのは興奮剤だ。
 この色に染められたら、どんな風に気持ちいいか知っている。
「あっ、ヒュ、ト……っ」
 ヒュトロダエウスはアゼムの言葉を待つことなく、自身の欲望に従っていく。手のひらに委ねた熱を上下と扱き、先端の小さな割れ目を親指の腹で軽く押しながら撫でれば、アゼムの腰がもどかしそうに揺れた。太めの眉を寄せて、戸惑い混じりに吐息を漏らす。
 まるで電気が背中を太い骨を伝って頭のてっぺんへと淫猥な音を響かせている。
 アゼムの雄から零れた液は竿を濡らし、根元までしっとりとさせ、熟していく。ヒュトロダエウスの手はその先走りの液で滑りをよくされ、少し緩急を付けて動かせばアゼムはまた声を殺しながら鳴いた。
 ヒュトロダエウスの唇が頬から顎、首、鎖骨へ下り肌の熱を愉悦に変えていけばアゼムはもうその熱を享受することに夢中になってしまった。ヒュトロダエウスは暑くなってローブを脱いで、ズボンのチャックを下ろして自身の硬度を増した欲望を取り出した。
 自分のものも透明な液体をだらしなく垂らしながら興奮している。
 ヒュトロダエウスの髪が肌に触れるとくすぐったくたくて、アゼムは、
「君の髪が、くすぐったい」
 と、眉尻を下げて喘ぐ中で小さく漏らす。
「じゃあこうしよう」
 そう言ってヒュトロダエウスはアゼムの身体を起こして向かい合うようにする。
「下を見てみて」
 視線を落とせば自分のペニスとヒュトロダエウスのペニスと先がキスをするように擦り合って、竿を呼吸に合わせるように扱いているのが見えて、アゼムは顔を赤らめた。
 ヒュトロダエウスは空いた片手でアゼムの項を摩り、吐息を肩へ吹きかける。
「すごく気持ちよさそう、どう?」
 言葉を掛けると一緒に濡れたヒュトロダエウスの手が竿を刺激する。耳からも入っている声は煽りものばかりで身体の中心は渦巻く熱で暴れていた。
「あ、ぁ、は」
 もっと、と口が滑りそうになりアゼムはきゅっ、と口を結んでヒュトロダエウスの胸へと頭を擦り付ける。
 彼の手が何度も根元からカリの部分までをゆっくりだったり早くなったり行き来すると、勃起したペニスは震えて止めどなく体液を溢れさせた。
「ほら、ワタシのも触ってアゼム」
 肩を掴んでいる手を下肢の熱欲へと誘い、握らせて、「ワタシのようにしてごらん」、と醜態を共有する。部屋のこの一か所だけがとても熱くて早く楽になりたい、と急かされる気分だ。言われるままにヒュトロダエウスの雄を握り、彼に合わせて動かせばもっと熱い息が快楽を伝えた。
「ひゅ、と、ぁ、もぅ」
 だらだらと零れた液体が摩擦によって水音を鳴らし、最後に押し寄せてくる痺れ爛れた欲情を吐き出したくてたまらなくなってくると、アゼムはその快感を味わうために自ら腰を揺らしてヒュトロダエウスへと懇願した。
 彼の長く白い指が自分の太いペニスに液体と一緒に絡んで絶頂へと連れて行く。その背徳は甘美な刺激だ。
「うん、いいよ、アゼム」
 握り扱いていたアゼムの熱の塊をヒュトロダエウスは促されるままに荒々しく、そして震える先端の鈴口を抉ってやればアゼムは大きく身体を震わせて、イク、と奥歯を噛み締めた声を訴えた。
「あ、ぁ、出るっ」
 そう吐くのと同時にアゼムはお互いの身体の間で、熱を弾けさせた。脳天まで駆けあがってくるその感覚は一瞬のことで、びりびりと足の爪先から頭のてっぺんまでを痺れさせる。
 吐き出した白濁の欲望は飛沫して散り、腹を盛大に汚す。
 自分が達することで精いっぱいになってしまい、アゼムはすっかりヒュトロダエウスの雄から手を離してしまっていた。
 アゼムの雄からは勢いよく吐き出し匂いを充満させていたが、びゅるびゅると吹き出してその熱は小さくなっていく。
「アゼム、上手にイけたね。まだたくさん出てる」
 ヒュトロダエウスは汚れる手を気にすることなく、達して震えている雄を優しく掴んで撫でると、アゼムは敏感になった箇所からの感触に肩を震わせた。
「もっと気持ちよくなりたいよね。ワタシも気持ちよくしてほしいなぁ」
 そう愉快に笑ってアゼムの前髪を掻き上げて額にキスをすると、汗の味が唇に残った。
 ヒュトロダエウスが何を望んでいるのかを朦朧とする頭の中で、気持ち良くして欲しいこと、を考える。
 そしてアゼムは蕩けた瞳を伏せながら、ソファから降り膝を付くとヒュトロダエウスの股の間で滾っている熱欲へと顔を寄せた。
「アゼム」
 ヒュトロダエウスの熱い吐息と一緒に名前を呼ぶと、彼はゆっくりと口腔の中へとその太くて逞しい雄を含み入れた。
「うっ、ぅ、ん」
 硬くなったその肉の竿へと舌を這わせ、口を窄める。細い血管が浮き出た裏筋を舌の表面で丁寧に舐め上げて、ちろちろと小刻みに舐めればヒュトロダエウスの気持ちよさそうな声が漏れ落ちる。
 一度口から離して唾液を口の中で溜めながら彼のペニスの先を舌先で愛撫し、頬ずりをするように竿に唇を這わせ手でも扱いた。唾液を絡めてまた口に咥えて上下に動き出す。
「アゼム、上手だね」
 ヒュトロダエウスはアゼムの頭をよしよしと撫でて、彼から施される口淫に興奮がさらに乾いた欲に油を注ぐ。
「あっ、ぐ……ぅ」
 真っ赤になった耳朶を触られて、思わず肩が震えた。ヒュトロダエウスはアゼムの頭を掴むと、無理矢理に喉奥までペニスを擦り付ける。
 思わず咽そうになってしまうがヒュトロダエウスに頭を抑えられているため動くことはできず、彼の硬くて太い欲望が咥内の肉壁を擦れ動き、アゼムは必死になって舌を這わせた。
 苦しい、と思ってもちらりと見上げるとヒュトロダエウスは気持ち良さそうに目と細めていて、その目と出会うとヒュトロダエウスは愉悦ににっこりと隠すことなく微笑んだ。それはとても妖艶に見えてアゼムは心臓が飛び上がってしまい、また身体が熱くなってくるのを感じた。
「ん、んっ、う」
 熱くて蕩けそうな舌が自分の性器を頬張り、唾液を口端から零しながら奉仕している姿を見下ろしているとこんな風に彼を支配している背徳と喜悦が混ざり合い、嫌だと言われてももっと攻めて立てたくなる。ちらりとエメトセルクの顔が浮かんでしまったが、きっと許してくれるだろう。
 アゼムは特別なのだ、ワタシにとっても。
 まるで出会うのが必然だったかのようにしてワタシたちと出会い、気が付けばいつも中心にいた。
(エメトセルクがアゼムを独り占めするのはよくないよね、ワタシだってアゼムのことが好きなんだから)
 やめようにもやめたくない行為の続きにうずうずして、ヒュトロダエウスはアゼムの顔を自分の股間から引き剥がすと腕を掴んで自分の上に座らせた。
 口周りの唾液を拭ってやるとちろりと出した舌で、顎から首筋を舐めると汗の味がする。
 アゼムはようやく口から大きく息を吸い込んでヒュトロダエウスの肩に手をついて、彼の鼻先に自分の鼻先を愛着を持って擦り寄せた。
「アゼム、また硬くなってるね。えっちだなぁ」
 ヒュトロダエウスに跨る形のアゼムの中心はまた大きく膨らみ、涎を垂れしている。それを言葉で言われると、さらにカッと全身が熱くなるのを感じだ。
「言う、なよ」
「じゃあ触っていいかい?」
 そう言いながらヒュトロダエウスの手がアゼムの屹立した雄に触れる。
「うっ、ぁ」
 それからヒュトロダエウスの天を向いた雄の先っぽが自分の臀部の割れ目を擦ってくると、腰が震えてしまう。
「キミの中にまた挿れたい」
 そう甘く優しい声に乗せて耳元で囁かれると、アゼムはその声が直接頭に響いてきてしまい短い睫毛を揺らして身体を強張らせた。この大きな熱が自分の小さな穴から入ってくることを想像すると、怖いというよりそれによって得られる悦楽を妄想する。
 ヒュトロダエウスの指が細い腰を撫で、臀部の谷間を沿って入り口を探す。その指先が窄みを見つけて周りを優しく摩ると少し汗ばんでいた。
「いきなりは入れないから大丈夫だよ、ほら、ゆっくり慣らしていくから」
 ぐっ、と広げられた穴にヒュトロダエウスの指先が少しだけ入ってくる。けれどそれは奥まで入ってくることなく、その皺を伸ばすようにマッサージを繰り返した。女性みたいに濡れるわけではないため、彼は自分の雄から垂れおちている液体を指に掬うとその小さな穴へと塗り付けた。
 ぬるっとしたその感触にアゼムの背筋に熱が走る。
「ひゅ、ト、っぁ」
 彼の体液が解すために何度も何度も塗られ、そのたびに指が浅く侵入してくると頭も身体もおかしくなりそうだった。小さな快感が生まれ、またすぐに消えてそしてまた倍になって浸透してくる。
 エメトセルクではない指がこの後の膨大な欲を貫きたいがために欲望を突き付けていることに、アゼムはもう翻弄されるしかなかった。いっそこのままエメトセルクが運悪くやってきてまた三人で混ざり合う夜を過ごすことさえ望んでしまう。
 アゼムは彼の肩口に顔を埋めながら、身体の中で暴れる熱を息として吐き出していた。次第にヒュトロダエウスの長くて細い指がじわじわと中へと埋める時間が長くなる。くっ、と彼の指が堅くなった肉壁に当たるとアゼムは大きな声を出してしまった。そこはだめ、と言いたくても声にはならなかった。
 乱れるアゼムの姿を目に焼き付けながらヒュトロダエウスは息を荒くしてお願いをする。
「ねえ、もうワタシ我慢できそうにないんだけど、挿れてもいいかい?アゼム」
 ヒュトロダエウスは指を引き抜くとさらにその窄まりを拡げ、自分の滾った熱欲を愛おしそうに擦りつけた。濡れた先端が少しだけ入ってくると、アゼムは低く喘ぎながら歯を食いし縛り頷く。
 その表情はもうあの清々しくて颯爽とした青年とは思えないほどに艶やかで、淫らだ。青い目は今にも深海へと溶けていってしまいそうなほどに濃く濡れて、肌は汗で湿り吐息は忙しく乱れている。
「聞かなくても、もう、挿って、る」
 ノーと言っても君はそうするんだろ、とアゼムは口端を緩めてキスをした。
 アゼムからゆっくりと腰を下ろしていくとその熱が身体を焦がしながら押し入ってくると、息が詰まった。内臓を抉り、その膨張した雄は硬さを保ったままその隘路に埋まっていく。
「あ、ぁあ、っひゅ、と、うぅ」
 途中までは招くように沈めていたが、奥に挿ってくるにつれて恐怖心の方が勝り止まってしまう。ヒュトロダエウスはアゼムの耳たぶに触れて項を摩り、背中を撫で下ろしていった。
 震えるアゼムの腰へと手をあてて、ぐっと重力に逆らうことを許さず止まっていた挿入の続きを促した。
「あぁ、だめ、待っ──」
沈んだ腰がヒュトロダエウスの雄を吞み込んでしまったことに、アゼムは目の中をちかちかと弾けさせる。隙間なく埋まったその欲望はどくどくと血流を波打ち、アゼムの内部を犯す。
 待ってと言われて待つ男がこの世にいるだろうか、とそんな小さな疑問を色欲に掻き消して、ヒュトロダエウスは彼の臍の周りを摩った。
「この前はエメトセルクの精液があったけど、今日は違うからちょっと苦しいね」
 ヒュトロダエウスもさすがの狭さに顔を顰めはしたが、抜きたいとは思わなかった。むしろこれから自分のもので汚すという行為に興奮を増していく。
 アゼムを抱き締めて、ヒュトロダエウスは自分と繋がった箇所を指の腹で撫で、臀部を掴むとゆっくりと上下に彼の身体を揺らし始めた。
「あ、ぁあ、う、はっ」
 アゼムはヒュトロダエウスにしがみ付き、行為を委ねる。湿ることはない隘路は次第にヒュトロダエウスの雄から分泌された先走りの液体で滑りがよくなってくると、ぐちゅ、という濁音で空気を揺らす。
 ヒュトロダエウスの雄の形を覚えるようにアナルは拡がり、だんだんと痛みから快楽へとすり替わっていくことをアゼムは理解している。
 侵入したその淫らな熱の塊に穿たれて、身体の中にどんどんと膨れ上がる快感にむせび泣いてヒュトロダエウスへとしがみ付いた。彼が腰を打ち上げるたび爛れた箇所からは卑猥な音が振動し、アゼムをさらに高みへと誘う。
 額に丸い汗を浮かべ、声はもう短い吐息を混ぜた母音だけだ。
「キミの中、本当に気持ちがいいね。熱くて、ワタシのことを呑み込んでる」
 ぎゅうぎゅうに埋まるその欲望に名前を付けるとしたらなんだろうか。愛とはまた違う、何かだ。
「エメトセルクにもまた見てもらいたいな」
 ふいにここにいない白髪の男の名前を出されると、アゼムの内部が締まった。
 それに気づいたヒュトロダエウスはクスッと嗤って耳元でまたその名前を出してみると、アゼムは耳を真っ赤にして首を振った。
「エメトセルクとのセックスを思い出しちゃったの?それとも彼に見られたいな、て?」
 アゼムはえっちだな、と最後に付け加えて止まっていた律動を再開させた。アゼムの身体が震え、また呼吸が乱れ痴れるのを眺める。
 もう身体の熱はいつ弾けてもおかしくない。
 内部で擦れる一番気持ちがいい場所がずっと痙攣し、自身の雄をまた勃起させ透明と白濁の液を交互に零している。言うなればずっと達っしているような感覚だろうか。
「い、言うなっ、て」
 ヒュトロダエウスからダイレクトな言葉を聞かされるとそれに呼応して体温が上がっていく。
 自分だけが恥ずかしいだけで口にしている本人は顔色一つ変えずに言葉にする。それがまた自分を羞恥に落とすのだろう。
「ねえ、アゼム。気付いてる?自分で腰を振ってるの」
 夢中になりすぎていたせいか、アゼムは自ら腰を落としてはまた引き抜いて、奥までいっぱいにして繰り返していた。ヒュトロダエウスはただ痴れる姿のアゼムを見上げて微笑んでいる。
「っ、だから、」
「聞かないでくれ、かい?だって気持ち良さそうにしてるからちゃんと気付いているかなって」
 ヒュトロダエウスは思ったことをすぐに口に出さないと気が済まないらしい。アゼムも性格的に思ったことはすぐに行動するし口に出てしまうタイプだが、このヒュトロダエウスという男は空気を読んでか読まないでか、人の心理状態をよくわかっている。
 アゼムは押し黙ると熱い視線のままヒュトロダエウスを睨んだ。
「君も性根が悪い」
「それは褒めてくれてるのかな」
 君も、という言葉に対しては受け流し、ヒュトロダエウスはアゼムの震え勃っている陰茎を手のひらに包むと緩く扱き始める。
「うっ、ぁ、やだ」
 ヒュトロダエウスの指が体液を溢れさせている先を抉るとアゼムは堪らず身を屈めて額を彼の胸へと寄せた。中からも前立腺が擦られ、さらに外からも刺激が加えられるとまた思考は真っ白になっていく。
 恥ずかしいなんて捨て去ってしまう、その官能的な痺れに沈んでいった。
「あ、ぁ、だめ、だって、またっ」
 大きな熱のうねりがまた捌け口を彷徨って腹の中を蠢いている。ヒュトロダエウスはいいよ、と囁いてアゼムの硬くなった雄を数度緩急付いて扱く。
 その瞬間にアゼムの中が締まり、さらに密着すると彼は二度目の射精をする。
「あ、ぁあっ──」
 その狭くなった肉壁にヒュトロダエウスも思わず達してしまいそうになったが、アゼムが射精すると同時に引き抜いて、どこを見ているかわからない蕩けた瞳を見つめてキスをした。
 舌を先に絡めたのはどちらからはわからないが唾液を混ぜ、角度を変えて何度も口づけてヒュトロダエウスはアゼムをソファに押し倒す。
 アゼムの膝裏を掴かんで身体を割り入るとまたすぐに自分の熱欲を彼の中へと貫いた。
「あ、ぁ、ひゅと、ろッ」
 覆いかぶさってくる男の熱は乱暴で、またいっぱいに拡がって全部を埋め込む。勢いよく飛び散った白い残滓のにおいが鼻を刺激する中、ヒュトロダエウスは根元まで埋めてしまうとすぐに動き出す。
 何度も出し入れされるとそこは赤く腫れてしまっていたが、それよりも快楽の方が大事だった。
 ヒュトロダエウスのラベンダー色の三つ編みが身体を揺らすたびに緩くなり、ほどけ始めていた。もう脳髄まで痺れてきて下半身はもう自分のものではないほどに蕩けている。
 穿つ熱がだんだんと速くなってくると、アゼムは視界を滲ませながらヒュトロダエウスの顔を見上げた。彼も真っ直ぐに自分を見下ろしていてその表情はとても逞しく、そして美しかった。
 両脚を胸にくっ付くほど折り曲げ、腰がソファから浮かせると、そこは臀部からぽたぽたとヒュトロダエウスがすでに零している液体とアゼムの残滓で汚れてしまっていた。
 身体が大きく揺さぶられ、アゼムは頭の後ろにあった枕に後頭部を擦り付けて喘いだ。
「アゼム、そろそろ、イキそうっ」
 ヒュトロダエウスは自分の欲情の限界がきていることを伝えると打ち付ける腰を強くする。その激しくなるぶつかり合いにアゼムは頷くことしかできなかった。
 甘くて優しいなんて言葉はもう相応しくないほどに狂暴で、ただその性欲を満たすためだけに彼はその中へとぱんぱんと乾いた肌の音を聞かせながら貫いて呼吸を乱した。
 そしてヒュトロダエウスは最後に腰を打ち付けるとアゼムの体内へと熱の濁流を勢いのまま流し込んだ。
「うっ、ぁあ」
 ヒュトロダエウスから吐き出された熱量に全身が震え、爛れた声が漏れる。与えられた快楽は身体に浸透していき、支配していく。この直接に腹へと伝わってくるものはいつだって気持ちが良い。
 汗も精も感情も何もかもがぐちゃぐちゃに混ざり溶け合って一つになる。
「アゼム」
 ヒュトロダエウスがゆっくりと雄を引き抜けば、その穴からは白濁の液が伝って溢れ出てくる。その感覚もまた背徳と快楽の二つが重なり合っているように思えた。
 輝く宝石のような双眸に見下ろされ、アゼムは瞳を開ける。彼の瞳もまた輝く宝石の色を見せていた。汗で張り付いた髪を梳き、頬を熱い手で撫でられるとアゼムもその手を上から重ねた。
 絶頂を迎えたあとの身体は湿っていて、急に冷たくなったが身体の中の火照りはまだ収まらない。
 アゼムはまだ蕩けた瞳でヒュトロダエウスの名前を呼んだ。
「アゼム、ベッドに行こう。まだ欲しいでしょ?」
 意識が遠くに行ってしまいそうなほどぼんやりとしている中でそう言って額に額を付けると、彼は微笑んだのだ。
 渇きの欲は水を求めるように、深く重なる熱を欲しがる。

bottom of page