
Under the Moonlit Night
今日は少し飲み過ぎたかもしれない、とそんな風に月を見上げながらアゼムは思う。
頬を掠めていく風が火照る頬と耳を冷まそうと撫でる。
雲一つなく今宵のアーモロートも美しく荘厳な建物たちが空に向かって伸びていて優しい明かりが灯っていた。
アゼムは片手にワインボトルを持ち、早足で歩いて自分の家ではないところへ急いだ。
うっかり話が盛り上がってしまい席を立つのが遅くなってしまった。本当はもう少し早くに切り上げて向かうはずだったのに、つい旅先でも話をせがまれると楽しくなって時間を忘れてしまう。
旅から街へと帰れば皆が今回の旅はどうだった、と目を輝かして聞いてくるのだ。
それでつい酒も進めば饒舌にもなり時計を見るのを忘れてしまう。皆、アゼムの話を聞く時は未知なことが多く、身を乗り出して聞いてくる。
それで君はどうしたいんだい、その問題はどう解決したんだい、それは驚いた!と次から次へと質問や感嘆で飛んできた。
アゼムは鼻歌を交えながらいつもの街路樹を曲がり、一つの建物へと入っていく。落ち着いた装飾と明かりの廊下を歩き、渦を巻く螺旋階段を軽快に昇って行った。時間が遅いせいかすれ違う人とも会うことなく目的の部屋に到着するとローブの袖から一つの鍵を取り出して扉を開けた。
「エメトセルク、いるかい?」
ガチャリ、と開いた扉の中を覗き込んでいるはずの人の名を呼んだ。
しかしその部屋には誰もいない。
壁にはぎっしりと本棚が埋め尽くされたくさんの本たちで満員だ。大きな窓側には大きなデスクがあり、そこには書類と筆記用具などが整理整頓されていた。部屋の真ん中には小さなテーブルと三人掛けのソファが置いてある。
部屋の主、エメトセルクはいないのだろうか。それとももう寝てしまったのだろうか、とワインボトルをテーブルに置く。ついでに顔の半分を覆っていた赤い仮面も外した。
そして開けっ放しにしてある寝室の方へとくるりと視線を向けて、アゼムはそっと部屋に忍び込んだ。
薄闇の寝室へと足を踏み入れるとダブルサイズの気持ちよさそうなベッドが目に入ったが、そこにも彼はいない。
おかしいな、と思いながらアゼムはその心地よさそうなベッドに誘われるままに飛び込んだ。
ふわっ、と白いシーツが舞って弾んだスプリングが身体を優しく迎えてくれる。
酔った身体にはこの感触がたまらない、と頬擦りをして大きなあくびをすると背中を丸めて目を閉じた。
この心地よい包まれる肌触りと酔いの回った頭はもう睡眠のことしか考えられなくなり、エメトセルクの所在などどうでもよくなってしまった。
すん、と嗅げばまるでそこにエメトセルクがいるような錯覚になる。
自分の部屋はいつだって埃っぽいがこの部屋は違う。
彼らしく整頓されいつでもいい匂いがする。匂い、と言っても花や香水の類ではなく、なんというかエメトセルクの匂いがするのだ。
この匂いが一番落ち着くし安心してよく眠れた。
一人で旅をしているのだから一人で寝るのは慣れているだろう、と言われたことがある。
無論、その通りだ。
しかしアゼムは決まってアーモロートに帰ってくればこの部屋で寝ていた。どうしてかと不機嫌そうな顔で何度も聞かれたが、さぁなんでだろうね?と笑って返している。
そういう彼もアゼムがここで寝ることを眉間の皺ほど嫌そうではなかったのがまた素直ではない。
アゼムはだんだんと思考が溶けていき、静かな寝息を立て始める。
それからしばらくして居間から続く別の部屋、バスルームの扉が開く音がした。白い髪をタオルで乾かしながら半裸の状態で出てくるとすぐに金色の瞳がテーブルに置かれたものを見つける。
それが何を意味していて誰が来ているのかを教えていた。
「まったく、」
部屋の主、エメトセルクはそうため息を零して一枚のグレー色のガウンを羽織り、タオルをバスルームに戻す。まだ髪は生乾きではあったが侵入者を探す方が先だ。
「アゼム」
ソファで転がっているかと思ったが回り込んで見てもそこにはいない。どうせ驚かそうと隠れているんだろう、と思ったがそういう空気でもない。そこで半端に開けられたままになっている寝室へと足を向けてみるとベッドで大の字になっている男を見つけた。
そこでもう一つ、懲りないため息を吐く。
だらしなく口を開けて気持ち良さそうに寝ているアゼムを見てエメトセルクは眉間に寄った皺を伸ばそうと指先を宛てた。
「おい、酔っ払い」
エメトセルクはベッドに腰を下ろしてアゼムの肩を掴んで揺らす。
漂う酒の匂いで相当飲んできたな、ということがわかるとさっさとベッドから引きずり下ろしたくなる。
「寝るならちゃんとシャワーを浴びてからにしろ、酔ったまま寝るな」
ベッドが臭くなるだろ、と悪態を付いてなんとか起こそうとするがアゼムが目を開けることはない。人のべッドで寝るのか構わないがそのままで寝ては欲しくない、とエメトセルクは散々言っている。これが初めてのことではないのがまた質が悪いというもの。
「アゼム、起きてるんだろ」
どうせ聞こえていて面倒くさくて寝たふりしてるんだろ、とエメトセルクはアゼムの顔を見下ろす。
掻き上げた前髪が重力で目の前に落ちてくるが気にすることなく、寝息を立てているアゼムをじっと見つめた。
すっと手のひらを胸に宛てればゆっくりと大きく肺を動かし規則正しい呼吸と温もりを感じた。
部屋の音は妙なほど静かでアゼムの小さな吐息しか聞こえない。
ほんの少し酒で紅潮した肌と無防備な姿。開けた首元から覗く乳白色の項は熱を誘っているようにし見えない。そんなものをはいどうぞ、とでも言いたげに放置されると少しばかり気持ちが焦がれないわけにはいかない。
「……アゼム、起きないならどうなっても知らないぞ」
本当に熟睡しているのかからかって起きないのか、それはエメトセルクにはもうどっちでもいいことだった。目を開けないなら勝手にされても構わない、とみなすだけだ。
エメトセルクの指がつっ、とアゼムの輪郭をなぞり半開きの薄い色の唇を親指で摩ると身を屈めて額を寄せた。
そうすると息と息が混ざり合って唇が触れる。それだけでも彼から吐く息は酔っているものだとわかる。アゼムはその触れた冷たい唇の感触に瞼を震わせた。それが起きているという証拠なのかわからないため、エメトセルクはもう一度唇を重ねると熱くなっている頬を摩り深く口づける。
触れるだけでは足りず、舌先で前歯をなぞり酒臭い口腔へと差し込んだ。柔らかい内の壁をぐるりと這いずり、平たい舌の表面を舐める。
柔らかくて生温かい蠢く感触が背筋に流れる痺れを腰へと伝え、疼かせた。
「ん、……ぅう」
アゼムの肩がひくりと動き、瞑った瞼のまつ毛が小刻みに揺れたのをエメトセルクは開けたままの双眸で見ていた。ぴくぴくと瞼の中で眼球が動いているのがわかった。
息苦しいのかアゼムは肩を抑え付けているエメトセルクの腕を縋る。圧し掛かってくる身体の圧と触れる箇所から伝播する酔いでは違う熱にアゼムは戸惑いながらも、ああ気持ちがいいな、と痴れた。
エメトセルクの唇が顎から首、鎖骨へと下りていくとくすぐったくてアゼムは笑いを堪えられなくなった。
「あ、ははっ、エメトセルク、くすぐったい!」
もう降参だよ、とアゼムは吹き出して笑う。
「起きているなら私を煩わせるな、この酔っ払いめ」
エメトセルクは舌打ちをすると身体を離してアゼムの額を指先で弾いた。
「いやいや、ほんとに寝てた寝てた」
本当に意識がなかったんだって、アゼムは身体を起こしながら弁解するがエメトセルクは信じていない。
「ちょっと飲みすぎちゃって、せっかく君ともいい夜を過ごしたくてワインを一本拝借してきたんだ。けど君の姿がなかったらもう寝ちゃったのかと思って部屋に来たら思わずベッドが気持ち良すぎてさ」
飛び込んだらそのまま意識が薄れた、と目元を緩めながらアゼムは早口で喋る。それを腕を組みながら聞き、はあ、と呆れた吐息を音にした。
「酒はもうやめておいてさっさとシャワーを浴びに行ってこい」
「ええ、やだよ。君に旅の話をするって約束だろ」
エメトセルクはちらり、と横目でアゼムを見やる。彼は特に悪びれた様子もなく、胡坐を掻いていいだろ?と微笑む。
思い出すのはアゼムが人々に囲まれている姿だ。
彼は他者から好かれている。だからいつでも街を歩けば、アゼム、アゼム様、旅の話を聞かせてと言われている。その輪は自然と大きくなり、誰もがアゼムといると楽しそうな顔をしていた。
これは小さな嫉妬だろう。
彼は誰にでも優しいし態度を変えないし、特別視もしない。
何時に来る、という約束でもなかったが確かにアゼムは旅を終えればエメトセルクにその楽しかったこと苦しかったこと、なんでも話した。
それはいつものこと。
そしてそれは他の人とて同じこと。
彼は決して自分のものではないしその自由奔放な意思を縛ることはできない。
「別に約束はしてないだろ。私よりまだ一緒にみんなと酒を飲んでいた方がよかったんじゃないか」
お前が勝手にそうしているだけだ、とどこかつんけんした声色でエメトセルクは告げる。
その発言にアゼムは首を傾げて疑問を投げかけた。
「もしかして、エメトセルク怒ってる?」
酔っ払いでやってきてさらに寝てしまい、約束はしてないと言いながらも自分以外とは楽しい時間を過ごしてきた。
「旅の話、もしかして一番最初に聞きたかった?」
アゼムはふいにそんな嫉妬深いことを考えてしまった。
エメトセルクはそれが図星だったのかくだらん、と言って唇を一本にきつく結う。
その様子を見てなんだか嬉しくなったアゼムは背中を見せたエメトセルクに思いっきり抱き付いた。
「おい、抱き付くな。酔っ払いめ」
「君ってほっんとに素直じゃないよね!」
「煩い、アゼム、離せ」
エメトセルクは回された腕を解こうと掴むが、アゼムは嫌だねと言って離そうとしない。
ああ、本当にこの男は自分を搔き乱して狂わすのだ。
「ごめんごめん、悪かったよエメトセルク」
温かい背中に頬を擦り寄せてくすくすと笑うアゼムの声が部屋に響くと、エメトセルクは腕を掴んで振り返りアゼムの身体をそのまま押し倒した。
まん丸と開いたアゼムの青い瞳はまっすぐにエメトセルクを捉えている。
「酔っ払いに謝れても嬉しくないな」
手首を掴むとそのふっくらとした手のひらに口づけ薄闇でも発光する満月を模したような瞳に射られる。
その魅惑な色はいつでもアゼムの魂を震わせて囚われるほどに美しく、強かった。この瞳になら取って食われてもいいとさえ思う。
「私より他の連中との時間の方が楽しかったってことだろう。あのワインを持って戻ったらどうだ?私は止めんぞ」
手の中心から熱を孕んだ唇が指先まで這ってくると、アゼムは小さな声を漏らす。
「君は、意地悪だな」
「それはお前だろう」
エメトセルクはふふんっと口元を緩めると、
「出て行かない、というなら私に何されてもいいということだ」
そうからかうように告げてはいたが瞳はいたって真剣そうだった。
アゼムは生唾を下すと降ってくる熱い視線に応えるように笑った。
そう言われて出て行くだなんて、エメトセルクはわかっている。それなのにそんなことを言うなんて意地悪の他ないじゃないか。
「俺はいつだって君に何されてもいいんだけどな」
今更じゃないか、と色を含んだ笑みを浮かべて掴まれて手を振り解いてエメトセルクの首に回した。
酔いも覚めていきそうで、このまま痴れた心地良い酔いを味わえるのであればあのワインを飲まなくても満足できそうだ、とアゼムは思う。
エメトセルクは何を期待して期待されているのかを理解すると、本当にこの男は性悪であると思わずにはいられない。
「お前という奴は本当に、」
「本当に?」
「黙れ」
「なんだよ、そっちじゃないか言いかけたの」
「煩い、」
そう短い掛け合いをするとすぐにアゼムの口を自分の口で塞いだ。
ひゅっ、と喉から息が零れてすぐにまた吸われる。角度が変わって唇を啄まれ、半ば強引に舌が挿ってくるとアゼムの喉が鳴った。
さっきは無意識だったけれど、今度はちゃんと認識しているとまるで別の生き物かのようにエメトセルクの舌が唾液を含ませて、頭を抱えられて咥内を犯してくる。
アゼムもその舌に吸われるように喉の奥から伸ばし、彼の舌をぐるりと摩った。
唾液が混ざり合った湿った音は耳をも刺激する。
アゼムが膝を立てるとちょうどエメトセルクの股間に中り、その刺激に思わず彼の身体が揺れた。
「硬くなってる」
その感触は確かに熱流が集まって雄としても意味を形にしている。彼はガウンだけを羽織っているだけのため、もうそれは直接触ってしまったも同然だ。
そうほろ酔いで笑うアゼムの両腕を頭の上で拘束するように掴んだ。
「お前もそうだろ」
やり返すようにエメトセルクの膝もアゼムの足の付け根へと擦り付ける。彼の言う通り、どちらの中心もこれからの行為を頭の中で先に妄想していた。
アゼムは息を詰まらせて、触れてくるエメトセルクの指先の熱に集中する。ローブのチャックを下ろしていけば柔らかい肌色が露わになった。平たい胸の小さなサーモンピンク色に誇張している突起はすでに浮き上がっている。
「あ、」
エメトセルクの口がアゼムの胸へと触れ、その小さな突起を食むと緊張した声が漏れ落ちた。舌先だけで粒の周りを擦り、少しだけ歯を立てるとアゼムの背中が緩やかな弧を描いた。掴まれた両手が開いてはまたぎゅっ、と力を込めて震える。
エメトセルクの肩までの髪が自分の肌に触れるとくすぐったさも相まってアゼムはむず痒くなる。
ジンジンと身体を巡り出す熱が脳内までやってくると、もっと欲しい、と欲求を強めていく。そのたびに腰が揺れて欲望をしっかりとした塊にしていく。
「エメト、セルク、待ってくれ、シャワー浴びたい、」
そういえば、と急に我に返る気持ちになりアゼムは頬を赤らめながら告げる。
酔っぱらったままだし、と言えばエメトセルクは喉を震わせて嘲笑う。
「今更遅い」
彼の指先が胸板から臍、下腹部へと下りていくとズボンのボタンを片手で器用に外して下着の中へと手を忍ばせた。
ひっ、と引き攣った声を聞かせてアゼムは頭を振った。
「う、あ……ぁ」
大きな手のひらが自分の熱を掴むとぬるりと先端から染み出た液が竿から根元までを塗っていく。
エメトセルクは両手の拘束を解いて自由になった手でアゼムのズボンを引き下ろしてしまうと自分に纏わりついていた衣類も脱ぎ、ベッド下へと投げる。
「あっ、ぁ、は」
浅い息を繰り返し、組み敷かれた身体に被さるもう一つ男の身体は隅々までアゼムを知っている。触れたことなどないというほどに。
エメトセルクの指は彼の熱欲をゆっくりと上から下へと扱き、時折浮き出た血管の筋を親指の腹で摩ってやるとさらにその雄は硬さを増して欲を溢れさせてくる。
自分もまた同じように腹に中りそうなほどに硬度を増して先走りの液を零し始めていた。
「えめ、っあ」
自身の先端をアゼムの鈴口へと押し当てると喉を晒しながら唸る。
ぐずぐずになった濃い液体が混ざりあってお互いを汚していくのを見るのは背徳と高揚が重なっていた。
身体が熱い、と思うのは飲みすぎた酒のせいなのかそれともエメトセルクから与えられる猥褻な熱のせいか。汗と精、それに酒の匂いが自分の鼻腔をおかしくしていく。
「アゼム」
熱に魘されたエメトセルクの声はとても色っぽくて、そんな声で呼ばれるのが自分であることへの興奮と独占欲にアゼムの熱はさらに身を蕩けさせていった。
重たく息を吐けばアゼムの頬に吹きかかり、目が合う。そうして自然と唇を何度も重ねてお互いの快感を探り合う。アゼムの手がエメトセルクの竿へと伸びて、握る。
そうすると彼は少し苦しそうな表情を浮かべるのだ。いつものような眉間に皺を寄せるのとまた違う欲情に戸惑う震えだ。
エメトセルクはアゼムの腕を掴むと身体を起こさせて、胡坐を掻いた自分の上に膝立ちにさせ、見下ろさせる。
そしてまたすぐに下腹部の熱がうねり始める。アゼムの手を肩へ掴ませると脇から腰へと触れ、丸い臀部へと辿る。
そこに隠れている小さな窄まりに指先で突くと、アゼムの全身は震えた。
「うぁ、ぐ……っは」
片手はまた屹立した雄を緩やかに包みもっと欲情を溢れさせていく。アゼムは肩を掴む手の力を強くして頭を垂れた。膝の力が少し抜けると、エメトセルクの勃起した雄が自分の睾丸を掠めるのだ。
熱に滲んだ青い瞳はエメトセルクを見下ろし触れた箇所から肥大していく欲望に眩暈を起こしている。
エメトセルクはアゼムの震える雄から掬った液を緩く刺激していた穴へと塗り付けていく。皺を伸ばすように拡げて徐々に湿らしていけば彼の腰がゆらゆらと揺れた。
肩口に顔を埋め、エメトセルクの耳へと熱い吐息を聞かせ啼いた。その蕩けた嬌声は脳髄を揺らし、性欲と理性のバランスを崩す。
「あっ、や」
エメトセルクは焦げ茶色の髪から薄ら見える耳朶を食み、耳の凹凸へと舌を這わせると、
アゼムの背中がびくりと大きく震えて耳をさらに真っ赤にさせた。
そのタイミングで尻の窄まりを弄っていた指先をぐっ、と押し挿れる。狭いその肉壁は指という異物を招き入れることはせずに押し出そうとするが、それは次第に蠕動し奥へと誘い込む。
浅い場所からゆっくりと湿る液を塗ってはまた出してまた塗っていく。そうしていけばもう一本指を増やして痛みは快楽へと移ろう。
アゼムの肉欲の棒はだらしなくしとどに精を垂らしてエメトセルクの股へと落ちていく。
「あ、ぁ、う」
苦悶に眉を顰め、アゼムはエメトセルクの指の感覚にただ声を殺し続ける。しかしエメトセルクの指がしこりのような塊の部分に触れるとそれはもう我慢することができなくなってしまう。
「あっ、だめ、だっ、そこっ、あぁ」
勃起した雄のせいで内部には敏感になる処がある。そこを指で何度も擦られると射精を促され熱望される。腰ががくがくと震えて、嫌だと言うアゼムをしっかりつかまえて耳元で気持ちがいいかと囁いてやる。
「ここが気持ちいいか?アゼム」
ぐっ、と曲がった指が性感である場所へ甘い痺れを打ち込んでいく。
アゼムは首を振って声を濡らしながら喘ぐ。
「あ、もぅ……っ、イき、そぅ」
我慢できないとアゼムは荒くなっていく呼吸に目を瞑れば暗い瞼の裏で光が眩いている。
しかしその瞬間に指が勢いよく抜かれてしまう。突然ぽっかり空いてしまった感覚にアゼムは顔を上げるとエメトセルクがほくそ笑んでいた。
「指よりこっちでイク方が好きだろ?」
そう生温い吐息を頬に吹きかけて、エメトセルクはさっきまで指で弄んでいたアナルに自身の欲情を宛がうとそのまま腰を掴んで下ろさせる。
ゆっくりと挿入していく指とは比にならない膨らみにアゼムは声を失う。
「……あ、ぁう」
濡れた先端から窄まりへと挿入していくと隘路はその形を覚えるように拡がっていく。ぴっちりと隙間なく埋まっていくとようやくまともな呼吸が出来るようになった。
エメトセルクはふるふると震えるアゼムの肩に触れ、項から焦げ茶色の髪に触れて頬を撫でる。
アゼム、と名前を呼べば埋めた下腹部が愉悦に痺れるのを感じた。
エメトセルクはアゼムの腰を根元まで沈めさせると腰を浮かし、また浅い場所を突き上げてまた出口まで抽挿を繰り返す。
雄の形に拡がった穴は次第に滑り、窮屈だった肉を解していった。身体を犯す熱はどんどんと暴走していき、アゼムは自分から腰を落としてはまた引いてまた落として、揺らす。
蕩け滲んだ瞳でエメトセルクを見つめ、その痴態を晒した。
じゅくじゅくと膿み出す熱に肌が粟立ち強烈な感覚に身を委ねる。すべてを使って擦れる悦楽にまた射精が昇ってくるのを感じ、アゼムは荒い吐息にエメトセルクの名前を混ぜて懇願する。
「ん、あぁ、ぁ、えめ、とせっ、また、っ」
突き上げる雄もまるでその時を待っていたかのように熱く滾り、呼吸を乱している。アゼムの性器は揺られる身体と一緒になって震え、エメトセルクの腹へ擦り付けていた。
中から這い上がってくるその熱の波に逆らうことなくひと際強く突かれると、彼の肩にしがみ付きながらとうとうその迸りを弾けさせた。
「あぁっ」
膨れた熱が白濁の液と一緒になって腹へと飛沫すると襲われる開放感に声が上ずる。
その衝撃できゅっ、と中が締まるとエメトセルクは眉を顰めた。促されるように吐き出してしまいそうになったが、まだアゼムの中に留まっていたいと思ったのか理性で押し止めアゼムをベッドへと倒した。
「や、っ、エメッ、まって、」
ずるりと抜けた雄をすぐに蕩けた場所へと埋めると両脚を胸にくっつくほどに折り曲げて身体を重ねる。
達したばかりの自分の余韻に浸かるのもあっという間ですぐにまた襲われる熱欲に脳内がスパークする。
アゼムの膝裏を持ち上げて腰を押し付けるとエメトセルクは欲望のままに腰を振って貫いた。ベッドが大きく軋んで音を濁音と一緒に聞かせた。
腰を振り続けるエメトセルクの額からは玉の汗がアゼムへと落ち、薄っすらとした視界の中でそれを見上げる。
それはとても煽情的でまた自分の中で育つ欲が疼いた。
「えめ、とせるくっ、きもち、いい?」
女の子宮みたいに迎えるわけでもない場所は果たして気持ちがいいのだろうか、と朦朧とする中でアゼムは思う。濡れないし狭いし居心地なんていいものじゃないだろう。それでもエメトセルクは俺を抱いてくれるだろうかと。
エメトセルクはその問いに腰を埋めたまま止まると呼吸を整えながらアゼムを見つめた。
「わかりきったことを聞くな、」
余裕のない声はまるで獣の唸り声だ。
「私はいつでも、お前が一番だと思っている」
そんなくだらないことを聞くなと、エメトセルクは乱暴に唇に噛み付いて貫く速さを次第に速めていった。絡まった舌から零れる互いの息はもう言葉ではない。
ただこの痴れた行為を貪り一緒に熱の渦へと落ちていくだけだ。
「あ、ぁぁ、エメっ、」
全身を揺すられ、アゼムはエメトセルクから与えられる快楽の悦びを待つ。
エメトセルクもそろそろこの渦巻く欲を吐き出そうと全身が痙攣し、息を詰めた。
「っ、アゼム──、」
数回強く腰を打ち付けてエメトセルクはようやく彼の中へと劣情を流し込んだ。その灼熱の欲望は直接腹を焼くほどに狂暴なものだった。
「う、ふっ……はぁ、あ」
ぎゅっ、と締め付けるアナルへ一滴も零すまいと吐き出したが引き抜くと白い液体はゆっくりと零れ落ちてくる。その感触はとても生温かくて気持ち悪いとは思わなかった。
「エメトセルク、」
アゼムはエメトセルクを抱き締めて背中を撫でる。
ああ、幸せだなと想いながら。
「エメトセルク」
もう一度名前を呼んで目を瞑ると一筋の涙が頬を伝った。この涙に意味はない。ただ温かい体温と鼓動を聞いて自然と零れた雫だ。
「あとでワインを開けよう。そして俺の話を聞いてよ」
エメトセルクはそんなアゼムの言葉にまたお前は、と呆れた顔をして見下ろした。
「いいだろ?それからでも色々遅くないさ」
手に手を重ね、アゼムは笑う。つられるようにエメトセルクも口端を緩め、くしゃりと髪を撫でつけた。
二人は知っている。
この月夜の下にはいくらでも愛し合える時間があると。
