
Imperfect love
瞬きをするのも忘れてしまいそうなほど、その空は美しかった。
漆黒に塗り潰されてもそのキャンパスには数えきれない白い明かりが散りばめられている。その星一つ一つに命があり、輝いているのだろう。どこかの誰かも自分のように空を見上げて命の輝きを眺めているに違いない。一八〇度の視界はその荘厳で静かで嘆息しか出なかった。
これは第一世界でも原初世界でも変わらない色だ。
大きく冷たい息を吸って、吐き出す。
瞼を閉じればまだそこに幻影のように星屑がチカチカとしていた。
風も凪ぐことない静寂だったが、その一瞬空気が揺らいだ。閉じた瞼を開ける前にその揺れた空気からさっきまでなかった黒い塊が出現し人の形を成すと声を発した。
「また一人でうろうろしていると要らぬ心配をする連中がやかましくなるぞ」
そう言って寝転がっている青年へ不機嫌とはまた違うめんどくさそうな声を伴って覗き込んだ。
ここはレイクランドのラクサン城。
朽ち果てている石の城跡だが歴史ある遺跡で保護もされている。その一番高い塔の上に彼らはいた。
「ここからの夜空はとても綺麗だと思わないか?エメトセルク」
ぱちりと目を開けるとそこには漆黒の夜空ではなく、しかめっ面の男の顔だ。それを少し嫌そうな顔をすると見下ろしているエメトセルクは鼻をフン、と鳴らして腕を組んで、「そうだな」と適当な返事をした。
綺麗と言われてもこんな小さな世界の色に感情を付けたことがない、と心底で思う。
そして珍しく、自分が現れたことに文句をつけなかった。いつもならまたか、という息を吐いてはなんでいるんだ、と零す。
エメトセルクはおもむろに彼の隣へ腰を下ろした。その背中はあいかわらず丸くて少し笑ってしまいそうになる。
「なんだ、珍しく静かじゃないか」
「まるでいつも俺が騒がしいみたいな言い方やめてくれよな」
いつも賑やかなのは周りであって俺じゃないよ、と乾いた笑い。彼はまだ体を起こさず、輝く点たちを見上げていた。
手を伸ばすと掴めそうな気がするが掴んでしまったらその光を摘んでしまうことになる。だから手のひらに乗るような仕草で星を撫でた。
「あんたはいつもタイミングがいいのか悪いのか、て時にくるよな」
彼はようやく体を起こし背中を伸ばしながら言った。エメトセルクはその彼を横目で見ながら月色の瞳を細める。
クリスタルリウムから聳え立つほんのりと青白い塔は夜空の星たちの輝きを邪魔していない。エメトセルクは肩を竦めると、「ちょうどいいタイミングと言ってくれたまえ」と嗤った。
「お前はこの星一つ一つに命があるとでも思っているんだろう?それは否だな」
くつくつと喉で声を混ぜて笑うとエメトセルクも空を見上げる。幾多の星に包みこまれ、黒い色に染まるのは悪い気分ではない。
ただこの点と点たちの光はただの照明にすぎないとエメトセルクは続けた。
それを聞いた彼は口を曲げて、そんな言い方はロマンチックじゃないだろうと返すと、青年からまさかそんな言葉を聞くだなんて思っていなかったため思わず聞き返してしまった。
「なんだよ、俺がロマンチックなんて言ったらおかしいか」
戦い続けてきた自分には確かに不釣り合いなセリフかもしれなかったが、思ったことは口にせずにはいられない。
「いいや?いや、おかしいか」
言い直されたことで彼は唇を尖らせて、悪かったな!とぶっきらぼうに言い放ちエメトセルクの肩を小突いた。
「お前がおかしくてお人よしなのは生まれつきだろ」
生まれるよりきっとそれはずっとずっと前からだろう。その魂はいつだって人とは違う色を放っている。
だから彼から零れ落ちる言葉も光も闇も、すべてがエメトセルクの特別であり愛しい欠片だ。錯覚しそうになるほどこのなりそこないの魂はそっくりで、目を閉じればその懐かしい姿を思い出すのは容易かった。
渇き疼くその枯渇した感情は今になって押し寄せてきてかき乱してくるのを認めず、この第一世界を舞台にした演劇をクライマックスまでもっていくことがエメトセルクの最大の願いだ。
いくら鼻腔を刺激する香りでもなりそこないであることを忘れてはならない。
もう失うことはたくさんだ、と無数の輝きに命などはないと言ってけれど星たちをどこか恋しそうに見上げた。
「おかしいは余計だろ」
青年は乾いた笑みを浮かべで首を傾げる。
「それにロマンチックなのはエメトセルクの方じゃないか」
目と目が数秒出会い、彼は薄い唇に弧を描いて言った。エメトセルクのその言葉に、喉からハッ、と思わず笑いが出てしまう。コホンと咳払いをすると胸を張って、
「御覧の通り、私はこう見えてガレマーレ帝国を創った創成者であり皇帝だった男だぞ?ロマンチックという言葉、ぴったりじゃないか」
そう威風堂々とパチンと指を鳴らしてその場にキラキラとした金の粉が舞い上がり風に流されていった。
「自分でそれを言う辺りあんたらしいな」
彼はエメトセルクにからかい交じりに笑うと、ふいに視線を落とした。
「……なぁ、たまに思うんだ」
澄んだ空気が妙にその声をはっきりした色になって相手の耳へと届ける。伏せた青い双眸には傷だらけの手のひらが写り込んでいる。
「この手はなんのためにあって傷の分、誰かを助けることが出来たのかって。この世界に来る前に、大切だった仲間を失った時は自分に腹が立って仕方なかったよ。どうして守れなかったんだろうかって未熟な自分が英雄なんて名乗っていいのか、て」
友と呼んでくれた者、一緒に旅をした者、出会った人たち。
それらすべてを守りたいなど偽善や驕りであることは頭でわかっていても感情はそうはいかなった。
それらすべてが運命だったというのなら生きている自分にはもっと人を助けなければならない使命があるということ。
「だからか、たまに祈りたくなるんだ」
星へと還って行ったであろう魂に声は聞こえなくても、俺はあなたたちの分も生きて人を救うよ、と願わずにはいられなかった。
自責の念を希望に変えていかないと逆にいつかすり潰されてしまう気がする。声に出して祈っておかないと生きているという願いに負けそうになる自分がいたがそれを誰かに話しても、彼らはもっと自分を心配し気遣わせてしまうだろう。
だからこうして時折一人、空を見上げた。
「まぁ、あんたなら別に話しても心配もしないだろうし深く考えることもないだろ?」
ある意味気楽だ、と目を細める。
エメトセルクは両手を組み合わせると眉間に皺を寄せた。
この男は本当に嫌になるくらいそっくりだ、と苛立つがそれと同時に波打つものは懐かしい匂いだった。
根っからの性格がこれだからあの魂もこの肉体に宿ることを必然としたのだろう。
(本当に忌々しくて、狂おしいー)
黙ったままのエメトセルクをよそ目に彼はまた体を仰向けにして天を仰いで深呼吸をした。
「不思議とあんたになら何でも話せるよな、ちょうどいい距離って言うのかわからなけど」
信頼しているわけではないが彼ら古代人たちの願いは悪ではない。ただ自分たちと手段が大きく違ってしまっただけでここに至るまでの経緯をお互い責めて殺し合ったところで道が開けるわけではない。
「やはりお前は変わり者だ」
エメトセルクは大きなため息を吐くと寝ころんだ彼を鬱蒼と見やる。
ふいに投げ出された彼の手首を掴むとその上に覆いかぶさると重く黒いコートの肩についた金色の装飾が小さな金属音を鳴らす。
視界の中にエメトセルクの顔が見えて口を半開きにした。
「エメトー」
彼の言葉は最後まで続かなかった。
覆いかぶさってきた彼の瞳の色を見る前に、その双眸は近くなった肌色にぼんやりしてしまってどんな表情をしていたか捉えることはできないまま冷たくなった唇が塞がれた。
すぐに離れたと思った唇はそのまま声を出す前にまた降ってきて吸われる。驚いて見開いた目と体は硬直してしまったが抵抗はしなかった。けれどここには誰もいないとわかっていても外なことには変わりがない。
呼吸をしようと開いた口は今度もエメトセルクの温かい呼吸に塞がれて舌を擦り合わされると腰の辺りがヒリヒリしてきて男でも柔らかい唇を噛まれ吸われると気持ちが良いというものだった。
「これがちょうどいい距離、ということか?ん?」
ようやく冷たい空気を口腔に感じることができると、エメトセルクは嘲笑いながらそうさきほどの言葉の意味を問い返す。
見下ろしてくるその表情は憎たらしいそのものだ。彼は目元を少し朱に濡らしながら、「うるさい」といつものように吐いた。
「誰か見られたらまずいって」
そう言って退かせようとするが、エメトセルクは退く気はないらしい。つっ、と白い手袋の指が鎖骨辺りに触れて喉が鳴る。お構いなくまた近づいてくる顔があると彼は思わず自分の口元に手当てた。
「だから、外!」
少しは気を遣ってくれ、て慌てた声で言うとその色めいたエメトセルクの瞳がニッと笑った。
「私が誰に見られても構わないんだがね」
面白げにそう零して今度は彼の瞼の上に手を乗せる。
「こうすればお前は見なくてすむだろ?」
そういうことじゃない、と突っ込みたかったが手を掴まれてあっと声を出す前に唇はまた犯される。どうしてこんな状況になってしまったのか整理しようが頭の中は舌の感触と早くなる鼓動のせいで正気を失っていく。視覚が塞がれると不安にもなるが、触れる場所がさらに研ぎ澄まされていく気がした。
「っ、ぅんん」
エメトセルクの手だったものはいつの間にか、なにか柔らかいもの、になっていてその手は腰と手に回されて半分体を起こされている。
さらりと頬に触れるものはエメトセルクの髪の毛だろうか。彼の手が腰を摩ると中心部分が嫌でも昂ってきているのがわかってきて、腰を捩らせた。
「あっ、」
耳たぶを食まれたようで大きな声が漏れてしまう。凸凹した耳の形を舌でなぞり、「わかるか?」とエメトセルクが熱い吐息と一緒に囁く。
「なにが、」
「お前の耳の形だ、こうして息を吹きかけて舌を這わすとどんな形をしていたか見えなくても思い出せるだろ?」
だからなんだって言うんだ、と言いたかったがざらざらした舌の感触は確かに塞がれた視界の脳裏で形を作りエメトセルクの舌がどこを舐めているのか妄想できた。
「ロマンチックなんて言ったの、取り消し、する、からなっ」
この変態め、と耳を赤らめて抗議してもそんなものはエメトセルクには痛くもかゆくもなく、欲情させる姿にしかならなかった。
エメトセルクの指先が平らい胸板から腹へ、さらに下へと下りていくと熱くなっている箇所へと辿り着く。
優しく摩ってやると彼は困ったように眉を顰めて啼く。
「やめ、っ」
やめて欲しかったがその熱はやっと触れてくれたことへの期待にさらに痛いほど膨らんでいる。人間の性はどんな状況でも興奮してしまうものなのか、と絶望したくなった。
うう、と呻いて彼はエメトセルクの腕にしがみ付く。
「早く触って欲しいんだろ?」
耳元で囁かれる声は艶があって悔しいが蕩けてしまいそうに焦がれるものだった。彼はぎゅっ、と腕を掴むと顔をエメトセルクの胸へと押し付ける。
「あんただって、そうなんだろ?なら早く、移動してくれっ」
羞恥などもう知ったことか。
今はエメトセルクが欲しい、としか考えられなかった。だれがこうしたわけでもなく、この男に恋まがいな感情をもってしまったのは自分だ。けれどそうさせたのは紛れもなくエメトセルクであることも自覚して欲しいものだ。
好きとか愛してるなんて言葉が欲しいというわけではない。
そんな言葉はただの流れる一つの言葉にしか過ぎない。
薄っぺらい一枚の感情なんてものはいらなかった。
ただ、この刹那の重なりを求め合えればよかった。
(そんなのおかしいよな、)
自分でもそう思う。エメトセルクに抱く情というものがどんな形をしているのか自分ですらも得体のしれない生き物だ。
ここは嫌だから移動してくれ、と懇願されるとエメトセルクは仕方ないなと肩を竦めると指を鳴らした。ふわっと体が浮いたかと思った瞬間にはもう体が柔らかくて暖かい場所へと移動していた。
背中に触れたものが何なのか知っている。これはベッドのシーツだ。
視界はまだ開かれないがここが自分のクリスタルリウムの部屋で間違いないだろう。
「エメトセルクっ、」
しかしそんな安心感などすぐに吹き飛んでしまう。急く手が上着を脱がすとひんやりとした素の手が肌に当たり、一瞬にして身ぐるみ剝がされたことへ怒鳴る。ばさぼさになった栗毛色の髪を撫でつけるとエメトセルクはそう急かすな、とまるで自分が早く犯してくれと申し出ているような言い方にまた怒りたくなる。
「エメトセルク、もう部屋なんだろこれを外してくれ」
「ふむ、それは否だ」
はっ?ととぼけた声が出てしまった。
目隠しはしっかりと巻き付いたままで掴んで剝がれない。嘘だろ、という声をよそにエメトセルクは笑った。
その口角をいやらしく上げてからかっている表情は見なくてもすぐに想像できてしまうのがまた腹立つ要因の一つ。この男は人の反応を見て弄ぶのが好きなのだ。
「それでは面白くないだろ、もっと感受性を豊かにした方が今後のためだぞ」
「今はそんなことー」
どうでもいいだろ、という前にエメトセルクが露出したままになっている彼の熱に触れる。ひっと声が引き攣った。
「早くしろと言ったのはお前だろ」
ねっとりと頬から耳へと舐められるとくぐもった艶を含んだ声が零れ、空気に浸透していく。
「あ、っ、うう」
エメトセルクの長い指が自分の硬くなった熱を絡み取り、摩っていくと深く沈んだ腰がまた疼き始める。先走りの透明な液がとろりと垂れ始め濡らしていく。エメトセルクは彼をベッドへと押し付けると物欲しそうに開いている唇に噛み付いて、首筋に舌を這わせた。
先端からあふれ出るいやらしい雫を掬いながら気持ちよい場所を扱くと彼の体は従順になっていく。抗うことなく蕩けてエメトセルクの成すがままになるのを見下ろすのは高揚せずにはいられなかった。
エメトセルクは枕の下に隠してある小さな瓶を取り出すと簡単に蓋を解いて中に入っている緩やかな液体を下腹部へと零した。冷たい、と突然の感触に驚いたがそれが何かはわかっている。
ぬるっとした液体は滑りを円滑にするオイルだ。
「はっ、ああっ、んっ」
体液と混ざり合うとさらにその欲望の証は屹立し、手のひらと潤滑油の擦れる水音が視界がないままだと非常に卑猥に聞こえてくる。
どんな形状をしているのか、何が先からあふれ出しているのか。そしてそれを自分とは違う綺麗な指が絡みついていることを真っ暗な中で想像する心臓の音がうるさいほど耳に響いていた。
「あ、っ」
そのあと、その手とは違う感触が自分の竿に宛がわれて体が震えた。
なに、と思ったがそれは自分と同じ形をしていてとても熱いということがわかる。
「待っ、あ、や」
彼は手をその先に伸ばすとエメトセルクは手を掴み、そこへと自ら導いた。そこにあったものは自分の熱と彼の大きな熱だ。
先っぽが擦れ合って裏筋辺りをエメトセルクの雄が擦りつけ、その二本の熱を彼に握らせる。
ガチガチに硬くなった肉同士が触れ合うと、それはとんでもない快感が待っていた。これは女にはできない男同士だから味わえる欲と言える。
「あ、エメト、セルッ、はっぁ」
慄いていた手だったがそのからじんわりと広がっていく悦楽を捕まえたくて竿を捉えると上からエメトセルクの手が摩ってくる。
交互する熱い吐息だけが熱気をさらに増加させて頭の中を真っ白にしていく。
エメトセルクも気持ちいい表情をしているだろうかと考えただけでぞくぞくとした。
互いの先走りの液がもう潤滑油もいらないほどに刺激し合って気持ちのよいしっとりとした湿った音を出している。
この指は自分のものでない、と錯覚するほど指は勝手に自らの熱を高みへと扱きエメトセルクの熱も重なると我慢なんてできなかった。
あっ、と声を詰めると彼は吐精する。
白濁した温かい熱を自分の腹に感じていると達した余韻もそこそこに次に刺激が欲しくなる。それに答えるようにエメトセルクは指を彼の小さな窄みの周りをやんわりと撫でてぐっ、と挿し入れた。
すでにオイルでも濡れていてさらに自らの白濁の液体を掬われてそこを汚していて最初から湿っていたかのような感触がする。
「あ、ああっ」
目が見えない分、頭の中だけでエメトセルクが今何をして何を求めているのか創り上げる。指は窮屈な肉壁を擦り上げて涎を垂らしてよがる自分を見下ろして嘲笑っているのだ。
汗ばむ胸をも撫でると舌を這わせて飾りの突起を食むと彼の体は快感に震えた。舌先でコロコロと舐められ吸われると腰からまた襲ってくる波がある。それによってまた自分の熱が頭を持ち上げ始めていることに気が付いていない。エメトセルクが「まだ足りないようだな」という笑い声がして奥歯を噛み締めて誰のせいだ、という言葉を砕いた。
エメトセルクは体内を弄る指をもう一本増やすと彼のいい場所、前立腺を探す。アナルから入ってすぐにその硬くなっている筋肉を見つけると集中的に擦った。
一度達してあとに与えられる気持ちの良い痺れる刺激は理性を奪っていく。擦りながら彼の開いたままの唇に軽く唇を触れると、寂しそうな声で啼く。きっと無意識なんだろうがそれはそれは煽情的だ。舌で口端から形をなぞっていくと彼は自ら歯の間からそろりと舌を出してくるのをじれったく知らないふりをして啄むキスをすると彼はエメトセルクの首を掴んで自分から唇を押し当て相手の口腔へ舌を入れた。珍しい積極的な行為に驚いたが、それもまた欲情を誘う。
内部を擦る指が抜けるとエメトセルクは自身の熱をそこへ宛てるが入っては来ない。
角度を変えて貪るように唇を重ね吸う。
焦れるものに彼は腰を揺らして、早く、とまるで強請っているようだった。
「エメッ、セルクっ」
青い瞳が見られないのは物足りない気がしたがこのしなやかな筋肉に艶やかさは非常に魅力的だ。ところどころに傷があるのは彼が戦士である証。
この体に傷ではない痕を残してめちゃくちゃにして征服したいという独占欲はエメトセルクの中でもはっきりした欲望だった。
この魂が今すぐ欲しいと、心底叫びそうになる。
「っわ、」
エメトセルクは彼の腕を掴んで体を起こして自分が横になると青年の足を自分の腹に跨がせた。視界がない彼は突然のことに驚いたがどういう体位になっているのか想像できたし自分の臀部の割れ目に当たっている熱がなんなのかもわかった。
そして今度は上からで飽き足らずエメトセルクは下からいやらしい目つきで眺めているのだろう。馬乗りになってしまった彼にエメトセルクは腕を掴んで顔を引き寄せた。
「自分で射れてみろ」
そう耳元で囁いて彼の手は臀部を触り蠢く窄みの周りを撫でると熱い吐息が零れてしまう。
「そん、なこと……」
視界も暗いままなのにわからないできない、と羞恥に首を振るがエメトセルクは強要する。
「出来ないわけないだろう?ちゃんと手伝ってやるぞ」
膝を軽く立てて彼の臀部を掴み、ここだと言って熱く勃起したままのペニスをひくついている場所を刺激する。少しでも力を抜いたらそのまま入れてしまいそうで慄く。
その震えを愉悦を浮かべて見られるのは愉しいものだがいつもでそのままでいてもらっては困るというもの。
「あ、はっ……、う」
ぬるりとしたものが何度も擦られて抱きつくように体を折り曲げて膝をつき、エメトセルクの胸へと顔を埋める。エメトセルクはその上半身を起き上がらせて、腰を掴んでゆっくりと落とさせた。
「待っ、た、あぁ」
「待っていたらいつまでたってもお前は射れないじゃないか」
先っぽから入ってくる熱は内臓を押し上げてきて苦しくて息を詰めるが、エメトセルクに息を大きく吐けと言われ肺を膨らませて吸い込み、吐く。するとその緩和の瞬間に肉棒をその窄みは受け入れた。
肉を裂いて入ってくる最初の熱情は苦しくて堪らない。しかも自ら腰を落としてそれを受け入れているのだから自分も随分と飼い慣らされてしまったな、とも思う。
「うう、あ、はっ……、」
エメトセルクの手は彼の腰を支え掴んだままだったが、自分の雄を咥え込んでいる辺りを優しく撫でた。エメトセルクも体を起こすと彼を引き寄せて口づける。しばらくそのまま動くことなく何度もキスをして体中を愛おしそうに撫でた。
未だに外してくれない目隠しの上からのキスをして耳たぶを食むと、その刺激に腰が揺れた。
「う、ううっん」
痛いようなジンジンと拡がっていく熱情に体は真っ赤に支配されているような気分だ。押し入った男の熱が少し膨らんで主張し始めると、彼の腰をまた掴んで上に離させるとまた沈めた。
「自分で射れろと言ったがそのあとどうしたらいいか、わかるな?」
つつっと指が背筋を辿る。
「っ、どうって」
目隠ししていても狼狽している双眸が見えそうだった。
彼はエメトセルクの腕から探り、肩に手を乗せると恐る恐る腰を浮かせてゆっくりとまた中へ熱を挿す。喉元を反りながら色のある嘆息を吐き出しながらその行為に夢中になっていく。
いいぞ、とエメトセルクは囁くとまた体をシーツの中へと埋めた。
彼も手のひらをシーツへと突っ張り腰の動きに没頭していく。最初は自分でやれと言われて抵抗はあったものの、やらないと欲しい熱は与えられない。そしてようやく羞恥より恥辱に溺れることを選んだ煩悩は求めることに執着する。
薄暗い部屋に熱い吐息が二つ重なってルームランプの明かりが汗ばんだ肌が滑らかにしていた。
ベッドが動くたびに浮き沈みを繰り返して軋んでいることなど気にもならなかった。
「あ、あっ、あ、う」
時折、前立腺にエメトセルクのペニスが当たるのかくぐもった声と嬌声が混じり合う。肉壁の間には先走りの液体が濡らされてにちにちと擦れ湿った小さな音が部屋を満たしている。
エメトセルクは前髪を掻き上げると、にやりと笑う。
「いやらしい姿だな」
自分が男に跨り必死に腰を振っていることを言葉にされると、声からまた犯されているような気がしてさらに心臓は爆発しそうだった。
好きなように腰を振っている姿を見ているエメトセルクの視線はなまめかしい。彼のまた腫れてしまっている雄はエメトセルクの腹の上で気持ちよさそうに擦っている。
少しエメトセルクが意地悪をするように突き上げると彼は驚いた上ずった声を上げて、腰を擦り付けてきた。
このまま自由にさせて眺めていてもいいのだがそろそろ自分自身も我慢の限界だ。
「エッメ、待っー、」
勢いよく下から突き上げられると彼はもう自分ではコントロールできなくなってしまう。
緩急つけた抜き挿しに入り口は擦られ続け痛みと痴情が入り乱れ呼吸と一緒に快感を零し続ける。
肉壁を指とは比べものにならない質量が何度も何度も隙間なく行き来し、気持ちのいい場所を刺激し蕩けていく。女みたいな柔らかさがなくてもそこはもう十分に熟れていて達するのを待っているかのようにエメトセルクを咥え込む。
「あ、あっ、ううっ、あ」
上半身を震わせて彼はまた倒れ込むようにして縋りついてくると、エメトセルクは一段と大きく腰を打ち付けて彼の中へと熱い欲望を勢いよく流し込んだ。耳元でエメトセルクの興奮した荒い息が聞こえ、また頭の中をおかしくさせて熱が腹に感じ続けるとその勢いのまま、また自分も達してしまった。
その激しい熱を受け止めさせるために浮かびそうな腰は強く掴まれて逃げることは許されなかった。
「……はっ、はぁ」
そしてようやく目隠しがずれて剥がれ落ちる。すっかり汗に涙に濡れてしまっていたようだ。暗い視界だけだった中、明かりがぼんやりと見え人の輪郭もぼやけていたのは涙のせいもあるだろう。
額に張り付いた前髪をエメトセルクは優しく払うと熱く重苦しくなるようなキスを手繰り寄せてした。
まだ熱が自分の中でどくどくと波を打っているのがわかる。彼はエメトセルクの頬を手に包み繰り返される口づけを甘く受け入れた。
この行為に愛や恋はない。
それは知っているけど彼と熱を交わすのはとても気分が良かった。
どんな夢を見てもどんなに沈んだ気持ちになっても、この男が一言声をかけてきて体を合わせればなんだかスッと軽くなるものがある気がする。
それが何かと言われたらわからない。
これはただの気紛れなのかもしれない。
それとも愛なのかもしれない。
人は不完全が故に愛を求めると言う。
自分もこの男も人なら、それは愛故の行動なのかもしれない。
(そんなこと考えたって、どうにもならないか)
重なるキスの中ぼんやりの思ってそれはまた濁流にのみ込まれていく。
