
ardent love
いつものようにひんやりとした広い廊下を歩いていき、螺旋階段を上がっていく。上った先は下の階より狭く、いくつかの部屋が並んでいた。
アーモロートに昇っていた太陽も沈み、廊下のランプたちが煌々と付き始めてからしばらく経っている。職務を終えた者たちは友たちと歓談しながら家路へと着く。そんな当たり前の毎日が今日も変わらずあった。
しかし最近はアーモロートの外から不思議な話がよく舞い込んできていた。
見たこともない天候や、動物たちの突然死。
創造魔法の暴発など今までなかったような事案が多くなり、十四人委員会が原因究明にあたっているが未だ多くのことが謎だ。
長きに渡って変化もなく人は星と歩み星をよくするために尽くしてきている。
それなのに少しずつ歪みが生じ始めたのは何かの前触れなのか、と噂する者もいたが十四人委員会の座についている彼はその噂などには耳を貸すことはなかった。
何のために十四人委員会があるというのだ。
星を管理し、より良く歩むための組織があるのだ。叡智の街アーモロートの住人がそんなくだらない噂を口にするもんじゃない、と彼は目を細めて一瞥するだけだ。
抱えた紙の束はそうした噂の元から発生している不可解な事案の報告書だ。
これからすべてに目を通してしかる管轄へと回し、解決にあたる。魔法に長けている自分はエーテルを視ることが強くできるため必要とあれば赴くこともちろんある。
知人から馬鹿みたいに大きなバケツから常に水が溢れているけどその水の出どころはなくて枯渇しない永遠の魔法の泉だ、となぜか笑われながら言われた。
長く黒いローブを地面に擦りながら奥へと向かい、窓際にある一つの扉の前に立つ。他の部屋とは違って美しい木彫りの細工がしてある扉だ。
彼は部屋の扉のノブに手をかけて静かに開ける。ギッと、擦れた音がして開くと部屋の中は暗く、橙色のルームランプだけが優しく灯っていた。
静かに扉を開けたのには理由があった。
部屋の中に視えたのだ。
(……まったく、こいつはまた勝手に)
人よりよく視えてしまう、というのは厄介なものだ。しかしいつでも誰でも視えているわけではない。それでは人の尊厳というものがなくなってしまう。
ただこの隠そうとしないだだ洩れのエーテルが厄介なのだ。
大きな窓の外にはアーモロートの景色が広がっている。曲がりくねった建物もあれば天まで高く築かれた立派な建造物もある。
部屋は広く、壁はほとんど本棚に囲まれていて大きな書斎机が窓の近くに置かれていた。とても勤勉な部屋だと誰もが言うだろう。
隅にはここで仕事もして生活もできるようベッドまである。
机の上には紙にペンに開かれたままの古い本。
そしてその椅子に座って机に突っ伏して寝ている青年がいた。
彼はこの部屋の主ではない。
部屋の主は人の部屋に勝手に入り込んで眠りについている青年の横に不快そうに佇んでいる白髪の男だ。
じっ、としばらくその寝顔に見下ろして盛大なため息を吐く。大体いつもこの男相手に吐かないため息はない。
深紅色の仮面を外すと静かに机の上に置く。寝息を立てている彼もまた自身の仮面を外していた。
金色をした瞳を細めると指先を彼の頬へと伸ばして触れる。ピトっと冷たい肌の感触だった。
「……」
静寂しかない中で、彼、エメトセルクは身を屈めて焦げ茶色の髪を撫でてふっと耳元に息を吹きかけた。
するとそのこそばゆい感覚に驚いてガタガタと椅子を揺らしながらそこまで驚くことないだろうに、という大げさなリアクションで飛び上がった。
「な、なにするんだよ!」
そう言って飛び起きた青年は息を吹きかけられた耳に手を当てながら半ば叫ぶ。
エメトセルクは呆れんばかりの息を吐いて、
「なにってお前が狸寝入りをしているから起こしてやったまでだ」
と、肩を竦める。
「えっ、気付いてたんだ……」
寝ているなんて嘘だ、と見破られたことにショックな顔をしてエメトセルクを見上げて、「なんだぁ」と残念そうに呟く。
「お前の嘘を見抜けないほど私の目は節穴ではないぞ」
ふん、と鼻を鳴らして腕を組む。
ようやく耳のくすぐったさがなくなると、彼、アゼムは背筋を伸ばしてつまらないな、と笑ってぐいっとエメトセルクの方に体を乗り出した。
意味深ににっと笑うと、
「エメトセルクがキスしてくれるかな、て期待したんだけどな」
と、さらりと恥ずかしいことを口走る。
エメトセルクは開いた口から、はっ?と声を出してほんの少し体が固まってしまった。この男は平気な顔をしてとんでもないことをいつも口にする癖があるため非常に困っている。
「久しぶりに顔を見せたと思ったらすぐに人をからかうのはやめろ」
アゼムと顔を合わせたのは久しぶりだった。
どちらも何かと忙しい身であり十四の座であるアゼムは困ったことを解決するお悩み相談役だ。そのためアーモロートに滞在している時間より世界を渡り歩いている時間の方が長いかもしれない。
帰還するのは予定より遅くなるのも当たり前であれば早い時だってある。
そう、アゼムはいつも突然なのだ。こうして人の部屋に入り込んでいることが初めてのことではないし怒っているわけでもない。
窓から入ってくる陽が落ちた街明かりは薄く、互いの顔を半分照らしている。
アゼムは青い双眸の明かりを揺らすと、君に早く会いたかったんだ、と零した。
「ただいま、エメトセルク。それに狸寝入りじゃないんだって、本当に寝てたんだよ。まぁ君が部屋を開けた時には起きてしまったけれど」
今回はなかなか長い期間出かけてしまったよ、と苦笑する。
知識の街の外から聞こえてくる噂話。その影響でアゼムはより一層、任務へと出ることが多くなっていたことは本人もわかっている。
エメトセルクはしかめっ面のまま、彼の腕を掴むとローブを捲し上げた。
「派手な怪我はしていないだろうな」
「あー、うん、してないよ」
棒読みな言葉で返事をすると、エメトセルクは長いため息をしたあとにしょうがない奴だと諦めの言葉を漏らす。
「だって怪我はしょうがないじゃないか、俺の仕事で避けようがないんだから」
大丈夫、先にちゃんと治療はしてきたからと言って笑う。
昔大怪我したまま大丈夫とへらへら笑っていたものだからこっぴどく怒られたことがあり、それ以来はきちんと治療を受けているらしい。
医療に発達したイデアもまた素晴らしいもので、ちょっとした切り傷など痕も残ることなく治ってしまう。大体の傷はよっぽどのことがない限りアーモロートに戻ってくれば完治するだろう。
例えそうだとしても傷だらけになって帰ってくる人を見て乱される心や、万が一のことなど自分も含めないだろうと思っても決してそれはいい気分のものではない。
「エメトセルク?」
腕を掴んだまま離さないのを見てアゼムは首を傾げる。
エメトセルクは、ああ、と零して手のひらから力を抜いた。
「お前がちゃんと誰にも迷惑かけずに帰ってくるならそれでいい」
「失礼だな、俺は誰にも迷惑かけてないぞ」
アゼムが唇をムッと突き出しとエメトセルクはほう、と言って方眉を吊り上げて彼を見下ろすと耳に掛けた一房の白髪が頬に落ちる。
「一番誰がお前の面倒事に巻き込まれているか自覚がないようだな、ん?」
その質問に対して、何か思い当たる節があるのか視線を逸らすとごめんごめんと乾いた笑いをする。
「まぁまぁエメトセルク、終わったことは水に流そうそうしよう、それが一番だ」
「お前が言うなお前が」
頭に大きな手が乗るとくしゃくしゃと髪の毛を搔き乱される。
その手はいつも温かく自分を包んでくれて大好きな熱だった。どんなに自分が間違えようが突っ走ろうが彼はいつでもどんな時でも傍にいて温めてくれる。怒られることも多かったが、そのあとは必ず頭に触れて今みたいにくしゃりと撫でてくれた。
だから自分は今でも無茶をしてもこの手があるからここに帰ってこようと思うのだろう。
「それじゃあ、君はまだ仕事があるみたいだしそろそろ行くよ」
アゼムは散らかった書斎をちらりと見て、笑った。
自分がここに勝手に来てから山積みになった書類があったし、やりかけのものもあったようだ。
エメトセルクがここに座って何を考えているのかな、と考えて彼の匂いが充満する心地よさに眠ってしまったのが最初だった。
アゼムが机の上に置きっぱなしにしてしまった自分も仮面に手を伸ばしたその時だった。
その伸ばした腕が強く掴まれるとバランスを崩した足が椅子を軽く蹴ってしまい、鈍い音が響く。
掴まれた腕を引かれ、エメトセルクの金色の目とアゼムの青い空より濃い青い目が出会い、あっという間のこと。腰を机にぶつけたというより乗り上げてしまったに近いだろう。白い紙がひらひらと大理石の地面へと落ちていくのを目で追うことはなかった。
その目は彼の目に射られていて動けない。
思ったままのことを口にしていいのなら、なんて綺麗な色をした瞳だろうと言うだろう。彼のその色は夜闇に煌々と輝く金色の月だ。
エメトセルクはアゼムの腕を衝動的に掴んでそのまま自分へと振り向かせると机の方へと体を押し付けた。
机の上に軽く乗ってしまったアゼムに重なるようにエメトセルクも体を寄せる。
驚いて丸々としてしまった目が彼を見上げ、息を飲んだ。
エメトセルク?と呼ぼうとした喉が鳴かない。
「お前はいつも勝手だな」
ぽつりと吐いた言葉は掠れている。
「勝手に来ておいて勝手に帰るのか。私がいつ、お前より仕事を優先してきたんだ?そんなことは一度もないだろ」
それをまだ仕事があるみたいだから、と言って立ち去るのは違うだろうと少し機嫌が悪そうな声色で言われる。
ぴた、とアゼムの頬にエメトセルクの手のひらが触れる。
それは確かな熱を持って。
「お前から誘っておいて出て行くとはいい度胸だな」
早く会いたかったから、キスしてくれると思ったなどと言っておきながらさっさと部屋から出て行こうとするのはどういうつもりだとエメトセルクは思っているらしい。
しかも仕事があるから、などという理由だ。
そんな理由でここで彼を帰すわけにはいくまい。
会いたかったのはアゼムだけではない。
それを一方的に満足して出ていくことなど許されないというわけだ。
「エメー」
エメトセルクの手がするりと首筋を撫で、
「ならば私も勝手にするぞ」
そう言ってアゼムの声を遮って、エメトセルクはその口を口で塞いだ。
どちらかと言えばアゼムの方からいつもグイグイと構っていく質で、エメトセルクは仕方ないと言って構ってくれるような性格ではあるがこうからかわれっぱなしだったり、冗談と言ってもその冗談は彼には通用しない。
それに彼もまたアゼムが思っている以上、もしかしたら本人も気付いていないほど一人の人に恋焦がれてしまっているということだ。
乗り上げてしまった机から本が落ちる音が大きく響いたがエメトセルクは気にしなかった。
塞いだ唇を一度離してもすぐに角度を変えて吸い、反る背中の真ん中をつつっと御本の指が這い下りて細い腰をローブの上から抱いた。
「んん、う」
待って、という声は全てエメトセルクの吐息の中に搔き消され、何度も塞がれる。優しいキスなんてものは最初からない。柔らかい唇は唾液とすでに濡れて、エメトセルクはアゼムの口腔へするりと舌を挿すと前歯からなぞり、上顎の肉を舌先で擦る。
アゼムの体が小さく痙攣して、エメトセルクの腕を掴むが行為が嫌だと言っているわけではない。
挿し込まれた舌は彼の引っ込んだ舌の上辺を擦り、くるりと回して絡めとる。
互いの唾液が捏ねくり回されて口元からは一人では出ない淫らに濡れた音を鳴らしていた。
アゼムの体の間に入り込んだエメトセルクの体が重心を掛けてくると足が完全に地面から浮いてしまった。
頬に熱が浮上してきてアゼムは息を吸うために離れた唇を自ら彼の頬を包んで押し当てると首へと腕を回した。
本当にこの部屋を何もしないまま出ようなんて思ってはいなかった。もちろん会いたくてここに来たのだから期待はしていた。だから望んだ触れ合いに胸が高鳴る。
「っ、ん、ぁ」
零れる息は苦しそうではあったが、とても気持ちの良さそうな声色だ。エメトセルクの白い髪が一房頬に触れて、それを耳に掛け直すとアゼムの唇を吸い続ける。
「あ、」
ふいにエメトセルクの手が肩から平らな胸板へと下りてくるとローブ下の肌が粟立った。
顎に零れる透明な液を指先で拭ってやるとそのまま首筋にかぶりつく。
「エメ、っセ」
発する声の名かきちんとした言葉にはならない。深呼吸してもすぐに乱れる息を整えようとするのは無駄だった。
「う、やっ、だめ」
エメトセルクに指が耳たぶに触れてくるとアゼムの肩が震える。
アゼムは耳が一番弱い。ほんの少し触ったり息を吹きかけるだけですぐに嫌がるし怒る。だから先ほども寝たふりをしている際に耳に息を吹きかけたら飛び起きたのだ。
嫌だという言葉をこのタイミングで言われてもやめたくないし、嫌だというならもっと触れたいと思うのが当然だろう、とエメトセルクは口端を上げて、「厭だ」と意地悪く笑った。
「あ、あっ、だめ、うっ」
耳の輪を上から舌先でつっ、と形をなぞって中の窪みに唾液を含んだ舌でわざとぐちゅぐちゅと音を出して舐めるとアゼムは無理無理と言って足をばたつかせるが圧し掛かる男の体を退かすことは叶わない。
片耳を口で犯されながらもう片方の耳を指先が優しく挟んでくる。
ダイレクトはその音と感触に一気に脳髄まで痺れてきてだらしなく悲鳴のような嬌声をエメトセルクの腕の中で啼く。
「お前は本当にここが好きだな」
エメトセルクはくくっ、と笑った。
真っ赤にした頬でアゼムは見上げると、「違う」と否定した。
「好きじゃない、繊細だと言ってくれ」
「お前のどこが繊細なんだ?」
どっちかと言えばがさつの間違いだろ、と言われてしまうとアゼムは青い双眸を滲ませたまま、「君は意地が悪い」と厚い胸を拳で叩いた。
「そういうお前の意地も悪さでは負けてないぞ」
うるさい、と返そうとした口をまた塞がれて腰を抱かれる。少し冷たく湿ってしまった唇だったが触れればすぐに熱を帯び始める。
チリチリと腹の下辺りが燻り始めるのがわかり、アゼムは腰を引こうとするがエメトセルクは逃がさないように引き寄せる。体内を循環する互いのエーテルはもうすでに絡み付いていて早く触れて欲しくてたまらないとばかりに溢れ出ていた。
熱くなる体にはこの黒く長いローブがとても邪魔でエメトセルクはすすっ、と腿から手を入れて下からローブを撒くし上げて一気に頭を通して脱がしてやった。
部屋に空気と自分も肌の温かさで肌に鳥肌が立つ。
「エメトセルク、あの、ここ、君の仕事机っ」
アゼムはローブを脱がされて髪の毛がぼさぼさになったことは気にしないが、自分たちが今どこで盛り始めてしまったのかをふと真面目に考えてしまう。
普段なら書類が広がった机でお菓子を食べるな飲みものを飲むな零すなと子どもに𠮟るようにガミガミ言うのは目の前で自らもローブを脱ぎ捨てている彼の方だ。
自分は肉体派である程度は鍛えているつもりだしアゼムの座を就いているというプライドもあり、男性としていい体つきをしていると自負している。
しかしエメトセルクの方が自分より背も高く、一回り筋肉の付きは違っていた。
小柄な自分より、より広い体をしている。
彼が戦闘をする姿などあまり見る者はいないだろう。だがエメトセルクも厄介事に巻き込まれたアゼムに召喚されれば大剣を振るい、敵をなぎ倒すのだ。
「ああ、そうだったな」
エメトセルクはアゼムのここは君の机、という言葉にから返事をする。
どうやら彼はもう気にしていないらしい。
「っあ、っ」
彼のひんやりした指先が露わになった明るい赤みの黄色の肌に触れて、喉から鋭い息が漏れた。
「あ、……、んぅ、っ」
つっ、と片手が背筋を撫でて抱き寄せられてエメトセルクの顔がアゼムの平たい胸へと近づく。
熱い吐息が吹きかけられてアゼムの腰が震えた。
浮き出た鎖骨から順番に下へと口づけされ胸の小さな肌より赤く色づいた突起を見つけると躊躇なく口へと含んだ。
「ひっ、あ、やっ」
アゼムは堪え切れない声を部屋に吐き出す。
女性の豊満な膨らみもないけれど、その小さな蕾は男性だろうが一つの性感帯だ。アゼムは胸を突き出すように腕を後ろ手に付きながら体を支えていた。エメトセルクは腰を撫でながら口に含んだ粒を舌先で潰し、円を描いて舐めては吸って繰り返す。
とても小さいというのにそこから伝わる卑猥な熱はどんどんと膨張していく。
歯を少し立てられると痛かったがそれすらもすぐに快感の波へと打ち変わっていくのだ。
「あ、あう、う……は、う」
エメトセルクが執拗に舌で転がしているとその熱は体内を伝って股間へと多く血を滾らせていくと、そこにはもう抗えないほど膨らんだものがはっきりとした形をしているのが自分からでも見えた。
ちらり、と潤んだ瞳がそれを見ていることに気が付いたエメトセルクは腰に回していた手をそこへと持っていく。
「エメトセルク、ぁ」
「もう我慢できなくなっているようだな」
触って欲しくない理性と触って欲しくてたまらない欲が混在する頭の中で勝ってくるのは後者の方だ。
彼の手のひらがやんわりと屹立しているものを捉えるとアゼムは前かがみになり手をエメトセルクの肩に置いた。
「う、うぅ、あっ」
布越しでも伝わってくる熱さにエメトセルクは苦笑し耳元で、「触って欲しいか?」と吐息を甘くしてわざとらしく聞く。アゼムは小さく頷いて見上げてくるエメトセルクの金色の視線から逃れるように目を伏せる。
エメトセルクは目を細めて指をアゼムの頬に、耳たぶに触れてそれからまた半開きの唇を噛んだ。
その間に隠している熱を露わにするためにスタックスのボタンを器用に片手で外してさらにその下の布地の中へと手を忍び込ませた。手のひらに掴めるその昂った雄はすでに薄っすらと先から透明な液を少しずつ零している。
キスだけの期待でもうこんなに膨らんでいるのか、とエメトセルクも芯が熱くなってくることに体中から熱が汗になって滲んでくる。
「ああ、あ、うう、エ、メ……っ」
長くてしなやかな指に自分の欲望が握られて摩られると息が早くなった。腰を少し浮かすとそのままスラックスごと下着を脱がされて生まれたままの姿になってしまう。
アゼムが自分の肩口に顔を埋めると焦げ茶色の髪は少しくすぐったかった。
もうこの机が自分の仕事で使っているもので紙もくしゃくしゃになってしまったし本は乱雑に落ちてしまっていることはどうでもよくなっていた。目の前に抱く男を今は無茶苦茶にしたいという欲だけが渦巻いている。
きっと後々でため息を吐きながら自分が片付けるんだろう。
アゼムの熱を手筒にした手で上下に扱いてやり、時折根元の睾丸との付け根を親指でぐりぐりと押すと、抱きつく腕に力が入る。
「アゼム、」
名前を呼んでまた扱き始め、今度は先っぽの割れ口を抉る。
「ひっあ、ああっ、だめっ」
背中が震えて怯えた声に似た喘ぐ声で這い上がってくる快感を制しようとするが、いつもそれは無駄に終わる。
この欲には抗えないのだ。どんな痛みに耐えられたとしてもエメトセルクから与えられるものは心も体も素直に応じていく。
呼吸が早まるとエメトセルクの手も早くなっていく。
そして膝を曲げてエメトセルクの腰に抱きつくと薄っすらと開いた目の中で見えたのは彼の興奮している同じ熱だ。
薄ら闇でもわかるぐらい彼もまた勃起した竿を布の中に隠している。
アゼムはそれへと手を伸ばし触れるとエメトセルクは驚いた息を漏らした。
「おい、っ」
触るな、と言っても遅い。
「俺だけ気持ちよくなるのは、よくないだろ、」
そう言ってアゼムは微笑むと臍の下から中へと手を入れて彼のそそり立つ熱を露わにしてやった。
自分を見て触って彼もまた同じように高揚していることが何よりも嬉しいと思った。
触れられたことによりエメトセルクの眉間が険しくなり、熱い吐息を落とす。ぬらりとしたその雄はアゼムより太く硬そうだった。逆手で握り親指がペニスの根元を緩急付けて触れてくることでエメトセルクは堪らず腰を少し揺らした。
これがこのまま行為を続けていけばどうなってどう自分に挿ってくるのかと想像するだけで尻の小さな窄みが疼くようだ。
「っ、……う」
互いが互いの熱欲を思うままに扱うと呼吸は交互に乱れて高みへと連れていく。
割れ目から次第に出てくる汁が多くなり、エメトセルクは欲情のままその液体を竿全体へと塗りたくりぐじゅぐじゅと音が出るようにてっぺんを親指で円を描いて絶頂へと促す。
「ああ、あっ、あ、やっ……あ」
先端と竿の間の部分も丁寧に刺激を加えてやるとアゼムは苦しそうで恍惚とした表情でエメトセルクの胸へと額を擦りつける。
だがその手はあと少し強く扱いてもらえれば迎えれそうな絶頂があるのにすぐには与えられない。
「アゼム、手を休めるな。私を気持ちよくしてくれるんだろ?」
自分が気持ちよくなってくることで疎かになってしまって手を指してエメトセルクはくつくつ意地悪く笑った。見下ろす彼の欲も雫となって溢れ出ている。
エメトセルクはアゼムの体を引っ張り、机から立たせると腿と腿をくっつけさせてその隙間ない場所に自分の雄を挟んだ。
「ひあ、あぁ」
熱くなったその肉棒はアゼムの腿の間に擦れてゆっくりと入れては抜いたりと動き始め、エメトセルクの手はアゼムのペニスをまた最初は優しく、それから激しく扱った。
股で擦れる熟れた熱は擬似的なセックスみたいなものだ。立たされちゃんと足を閉じていろと言われて踏ん張るものの、彼のペニスが腿の間を行ったり来たりしているのを見下ろすと、自分のペニスも揺れ動きされるがまま扱かれていると開放的な恥辱に頭の中は真っ白だった。
なんだこれ、とぼんやりとした思考の中であまりの視覚と触れ合う箇所からの快感に思う。
自分はもう何を言っているかわからないぐらい、あ、とかうう、とかしか言っていない。
(気持ちいい、)
ぞくぞくと背筋に走る電撃がある。
いつの間にかエメトセルクはアゼムの腰をしっかり押さえ腰を振っているし、今度はアゼム自身の手で自らの雄を握っている。
一人ですることは多くはないがやはり自分で達するオーガニズムより大切な人が触れて達する方が満足できた。
しかしこれはこれでとても興奮しているし自分の手が自分のものではないように感じる。
それはエメトセルクの囁きのせいだろう。
彼はどうすればいいのか教えてくれる。
私が触っていたようにすればいい、そう、ゆっくりとしたら強く扱いてみろ、先っぽから何が出ているか見えるか?それをもっと出てくるように触ればいい、そう言ってまるでその手が彼の手のような錯覚に陥る。
「エメ、ト……ぁ、クっ、もう、っ」
擦れる乾いた音、零れ落ちる淫らな音、喘ぐ声、鼻腔を刺激する汗の匂い。
イキそう、とアゼムは声にならない声で言うとエメトセルクはいいぞと言ってアゼムの手の上から自分の手を重ねて一緒に扱いてやった。エメトセルクの汗ばんだ胸板に額を擦り付けて短い呼吸を繰り返す。
彼の指が血管の浮き出た裏筋を数度擦り上げて射精を促すとアゼムの全身が震え、我慢できなくなった熱をようやくそこから解放する。
「あ、ああっー……っ」
腹に力が入り、精を自分の手とエメトセルクの手の中へ迸る。
飛び散った白濁は手だけではなく、互いの腹も汚してしまったが達した気持ち良さでどうでも良かった。
アゼムが達したことでエメトセルクも追い打ちをかけるようにまた股の間のペニスを強く擦り始める。
小さく呻いた声が聞こえたと思ったら、打つ付ける腰を止めて腿から抜くと数度自ら扱いてアゼムの腹へと射精した。
びゅるびゅると出る精子の熱を感じながらアゼムは恍惚と目を滲ませて肩から呼吸を繰り返し、散った白を眺めていた。目の中がチカチカと瞬いていて、ゆっくり開けると涙で滲んだ視界だ。
エメトセルクは大きな息を吐くと汚してしまった手を見下す。
「エメトセルク、」
掠れた声で名を呼ばれて彼の俯いたままの頭を見る。
アゼムは彼の手を掴むと自分の臀部へと誘った。それが何を意味しているのかわかってしまったエメトセルクはまた心臓の音が大きく跳ねる。
「おいー、」
「まだ、俺は足りてない」
これ以上の行為はするつもりがなかったがこの男はどうやら違うらしい。潤ませた煽情の瞳のまま見上げられると今さっき戻ってきた理性のという制止が蘇る熱に曇っていく。
君が欲しい、ハーデス。
そう耳元で囁かれるとエメトセルクは、もう知らんぞ!と投げやりにも似たむき出しの欲望に従うことにした。
こいつは誘い上手なのだ。自分でもそれをわかってやっていないところが質の悪いところでもある。
エメトセルクはアゼムの頬を包んで口づけるとそのまま腰を抱いてベッドの方へと向きを変えて何度もキスを繰り返して後ろへ後ろへ歩かせるとアゼムの足がベッドに当たり膝を折って倒れ込んだ。
白いシーツがふわっと浮いてまた体と一緒に沈み、エメトセルクの身体が覆いかぶさってくる。
「よく白々しく私の仕事があるから帰る、なんて言えたなこの口は」
そう言って親指で上唇をなぞりため息を零す。
アゼムは笑って、「そうかな?」とわざとらしく首を傾げた。
そうしている間に萎えてしまったはずの互いの雄はまた頭も持ち上げ始めて期待に膨らんでいる。
「あっ、」
互いの先が触れ合うとアゼムの身体が震える。擦りつけるようにしてエメトセルクが動くとまた汁が先端から泡のように吹き出す。
本当にいやらしい姿だ、とエメトセルクは恍惚に見下ろして自分だけのものにしたいという欲求が大きくなる。
アゼムの片足の腿を抱えて股を大きく開かせると腰が浮き、隠された小さな窄みが見えるようになった。そこへつつっ、と雄から掬いあげた液体を入り口へ塗りつけて指先を押し込む。
「う、ん……ううっ、ぁ」
少し入っては出てまたアゼムのペニスの我慢汁を掬って塗り、そしてまた入る。それを繰り返していると入ってくる指の長さも変わる。
エメトセルクの指が抽送するたびにひくひくと内部が蠢き、裂き入ってくる指に塗られたもので湿った音が少しずつ振動し始めた。
さらにアゼムの胸の飾りへと口づけて吸い上げると、ああ、と大きく啼いて背中が撓った。
「あ、あ、は……っ、あぁ、や、」
やだ、と口走っても身体は気持ちよさそうに撓り汗ばむ。
エメトセルクの指がぐっ、と薄い肉壁を擦り上げ、関節を曲げるとアゼムは一段と大きく喘いで痙攣した。
「ここだな気持ちいいところは」
ちゃんとわかっている、と嗤うとエメトセルクは乳首を吸いながら指を膀胱の近くにあるコリコリとした硬い場所を執拗に刺激する。
勃起した状態でしかわからないそこは一番気持ちがいい場所で彼が何度も摩ってくるとアゼムは首を振って歯を食いしばった。
「は、あ……ぁ、エメ、トセルッ、ク」
触れられていないのに自分の雄は震え前立腺を押されるたびに透明と白濁した液が竿を垂れ、その下をも濡らしていく。そのせいもあってさらに窄みはふやけていやらしい音をしっとりと聞かせる。
頭の中は切羽詰まり、息がはっはっ、と短くなる。
エメトセルクの指の動きが気持ち良くてアゼムはまた迫ってくる快感に溺れていく。腰が左右に揺れだめだめとうわごとを言いながらその瞬間がくるのを待っていた。
「いっ、また、い、イくっ……ああっ」
さっきも押し寄せてきた絶頂のコップの水が溢れてしまうともうそれは止められず、二度目の射精を構わずしてしまった。最初ほどの勢いはなかったものの、吐き出した精と汗の匂いが鼻を刺激してくるのがわかる。
エメトセルクは達していくアゼムの爛れた表情を冷静に見つめていたが、声を詰めて呻き頬を朱の染めて羞恥と快楽の狭間でもがく色気はとても美しく、そして愛しいものだった。
こんな姿を誰にも見せてたまるか、これは私のものだと独占の本能が蠢く。
達したのを見てすぐに指を抜くとエメトセルクは両足を肩に乗せ、そのまま自分の再度昂ったペニスをひくついている小さな穴へと挿入した。
「あ、ああっ、」
彼が重心を掛けるとアゼムの身体が柔らかく折れるように曲がり、腰が浮く。指とは違う太くて硬いものは入ってくることの腹への圧迫で息が苦しくなったが、それよりようやくもっとも欲しくて満たされた熱に全身を震わせた。
エメトセルクは狭い中に顔を顰めたが熱い吐息をアゼムに吹きかけて、ゆっくりと腰を押し付けて引いては押してを繰り返す。
自分のペニスからも零れている液が中を滑り易くもし、ぐちぐちと卑猥な音を作り出している。
「う、ぁ……、イッたばかり、だから、あ、だめ、っ」
達した後すぐにまた前立腺をエメトセルクの硬くなった熱が何度も擦り、アゼムのペニスはまだだらだらと精を飛び散らしていた。
頭の中も身体もふわふわしているし何も考えられなかった。
ただそこにある、触れてくる肌と中を穿つものが気持ちいいことしか思考にない。
息遣いの荒いエメトセルクは眉間に皺を寄せながら、アゼムが「気持ちいい」と、漏らすと腰を振るのをやめずに己の性のまま何度に何度も突いた。
「アゼム、っ」
エメトセルクの掠れた声色は苦しそうだったけれどとても艶があって、その声でアゼムはまたイキそうな気分になる。というかイキっぱなし、という方が正しいのかもしれない。
薄っすらと開けた双眸に振ってくる滲んだ金色の瞳はとても煽情的だ。
エメトセルクはぴったりと身体を重ねるようにするとアゼムの首に腕を回して喘ぐ口を塞いて舌で舌を絡めとる。アゼムも彼の腕に縋り、腕を回した。
揺れる身体と軋んだベッド。
濡れた音と湿った空気。
全部が混ざり合って溶けて行く、と思った時エメトセルクが穿つ腰を早くするとキスしたままの口の中で呻き、アゼムの中へとようやく精を流し込んだ。
流れ込んでくるその熱はダイレクトに腹に伝わる、焦がしてくる。
求められたものが与えられたことへの満足でアゼムは一瞬意識が遠くなる気がしたけれど、その感覚をまだ感じていたいと思いエメトセルクに精いっぱい抱き着いていた。
この熱だけが今の自分を大丈夫だ、と落ち着けてくれる。
どれだけ離れていて不安になってもここに帰ってくればこの温かい場所が自分を迎えてくれるのだと。
これからだって大丈夫、離さないでいようともがいてみようと。
「……アゼム、苦しいぞ」
ぎゅっ、と強く足をエメトセルクの腰に巻き付けて抱き着いたままのアゼムにエメトセルクは苦言する。
ぴったりとくっついたままの場所がその言葉の次にずるりと抜けると夢から覚めてしまった気分になった。
「君とならもっとくっついていたいのに」
「馬鹿を言え、お前がずっとくっついてくるなんて暑苦しくてたまらん」
エメトセルクはぽん、とアゼムの頭に広い手を置いて口端を上げてそうは言いながらも笑った。
今宵もこの腕の中には愛しい魂がいる。
そのことだけは何よりも素晴らしいことだった。
「エメトセルク」
アゼムは身体を起こすと明朗な声で呼んだ。
「好きだよ」
世界のどこに行っていようが帰ってきてこの腕の中に抱き締められる魂があることをとても幸せに思うよ、とアゼムはくしゃりと破顔で笑った。
好きな人が幸せでありますようにと、いつでも願いながら。
