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Alea jacta est.

 憎い、という感情がどういうものか知らなかった。
 人は話せば理解でき分かり合いその嬉しさや発見を共有できるものだと思っていた。
 そう、赤い星が降り注ぐまでは。
 澄んだ青い空はいつ見上げても遠くまでその色を浸透させどこまでも地平線にまでその青い世界を美しさで満たしていたはずなのに奪われるのは一瞬だ。
 どす黒いその真っ赤な空から降り注ぐものは得体の知れない怪物たち。聞いたこともない咆哮を上げて美しかった世界を壊し、そこに生きる者たちの魂を混沌へと貶めて冥界へ還ることすらも出来なくなり彷徨う屍となる。
 そんな世界が訪れることなど誰が想像できようか。
 誰もだ。十四人委員会ですらもその終末の訪れに確固たる対処が出来ていない。
 しかしその知恵ある者たちが導き出した答えは彼らにしか出来ない最善の方法であった。
「星の意思である神を創造し、災厄を掃う」
 古代人である者たちが得意とした創造魔法を究極までに高め、星を救うための意思を創造し退けるという計画だ。それが一体どれだけ大きな術式でどれだけの魔法が必要なのか、最初に聞いた者たちはただただ口を開けて叡智ある者たちの話を聞くしかなかった。
「それは一体どうすればその神を創造できるのですか」
 縋るような思いだっただろう、一人の青年が声を震わせて聞く。
 白髪初老の赤い仮面の男が円形になった討論場でゆっくりとその核心を言葉にした。
「人の意思を創造するために必要なものはたった一つ。それは人の魂」
 その発言にざわつく者などいなかった。
 ただただ静まり返り、どういう意味かをすぐさま理解した。
 ありえない、とは誰もが否定をしない。
 世界を救うために星の意思を創造するという術式に必要なものが人である、と言われてしまえば頷けるものだった。
 ただそれをしなければならない、そうしなければ星も人も全てがなくなってしまうという危機に瀕したことがなかったため誰もそんなことを考えつかなかったのだ。
 自身の命をこの究極魔法に捧げれば星は救われるという事実に人々は頷き、賛同した。
 元々この命は星のためにある。
 そうして永い間を生きていた人にとっては今こそ使われるべきだと考える者が多かった。
 星が救われるのなら。
 その意思だけで人々はその魔法の構築もためにカピトル議事堂に押し寄せて署名をしていった。
 しかしこの創造魔法に対し、十四人委員会の中でもたった一人が反対をした。
 十四の座、アゼムだ。
 彼だけはその計画が出ると議長であるラハブレアに噛み付かんとする勢いで食って掛かり抗議した。
「それではその魂たちはどこへ?創造魔法に使われるということは冥界へと帰依することなく囚われ続けるのでは?その魂たちはどうなってもいいのか」
 もちろん、アゼムが言うことは正しかった。
 人の魂は巡るもの。この魔法ではそこから逸脱し、創造魔法へと溶け込みそのまま闇の牢獄へと未来永劫囚われてしまうかもしれない。
 それでは人は人ではなくなる。
 魂はいつでも巡らなければならない、とアゼムは主張した。
 だが彼の主張は特異なものでその声に耳を傾ける者ほとんどいなかった。
「それではお前はどうすればこの災厄から世界を救えると言うのだ」
 そう問われれば何も言い返せなかった。
 いつもは自信に満ち溢れている背中も肩を震わせて、俯くしかない姿を近しい人である友は見つめることしかできなかった。
 憤怒も悲哀もして、絶望を抱きながらその魂の輝きは鮮やかなもので希望という文字に当てはまっていた。
「それでもその計画に賛同することは出来ない」
 アゼムは計画を自分だけ止めることが出来ないのはわかっている。それでも、出来ることはあるんじゃないかと奔走した。
 友であるエメトセルクはその姿を見守ることしかできなかった。
「君もあの計画に賛成なのかい?」
 いつも居候のようしている彼の部屋でそう聞かれたことがあった。腰を下ろしたソファは二人分の体重で小さく軋む。それが妙に大きく耳障りに響いた。
「……お前は私にそうじゃない、と言って欲しいのか?」
 望む答えを与えることは出来ないと、隣に座ったアゼムに言葉を振りかけた。同じ十四人委員会の第三の座であるエメトセルクが自分と同じように反対するわけがないとアゼムもわかっていた。
 アゼムだってその創造魔法の素晴らしさはわかっている。
 きっとそれはこの燃える世界を救う担い手となるだろう。
 しかしそのために贄のように魂を使うことなど、頷けることではなかった。
 アゼムはエメトセルクの顔を見ることなく俯いたままその問いに答えない。
 その通りだ、彼は聡明な人だ。今どうすればいいのかを知っている。
 計画を反対していることが愚かだと一番わかっているのは自分自身だ。星のためになるならば、と贄になることを望む人が多いのがなぜなのかも、わかっている。ラハブレアたちがその先のことを考えてはいることだって知っている。
 すべては星のため。
 黙ったままの彼を見てエメトセルクはその柔らかくて丸い頭をぽん、と一度だけ撫でてくれた。
 言葉はなくてもそれだけで十分だった。これは避けられないのだ、それでも、だとしても自分は自分の出来ることをしようと。
 しかしその後すぐにアゼムは知ってしまう。
 その贄の中に親友がいることに。そして核として十四人委員会の調停者、エリディブスが捧げられることが決まったことも。
 真っ赤に染まった空はもう夜なのか昼なのかもわからない。街には獣がうろつき人々を襲っている。一刻も早くこの美しかった街並みを取り戻さえばと創造魔法の構築が始まり、人々はこの悪夢も早く終わらしてくれ助けてくれ救ってくれと我さきにこの命を使ってくれと中心地である議事堂に押し寄せる。
 その人たちの意思は固い。
 核となるエリディブスもまたその意思は揺るがなかった。
 アゼムにはそのどうすることも出来ない宿命を動かすことは出来なかった。
 自分がどれだけ反対しようが人々はそれを熱望し救済を求めている。本当にそれでよいのか、と問うても彼らはこちらを見向きもしない。
 ただただアゼムは寂しかったのだ。
 つい先日まで笑い合っていた者たちが消えていく。
 大切だったものが次から次へと欠けていく。
 自分は強い、なんでもできる、なんだって出来る、怖いものなどない、いつだって助けてくれと願えば仲間が手を差し伸べてくれたし差し伸べもした。
 どんな時だって最後には笑っていた。
 そんなものが今となってはただの虚勢でしかない錯覚に目の前が眩む。
 その世界をどうすれば自分の力で救えるのかわからない自分へも腹が立った。今までのなんとかなる、お願いだエメトセルクと手を差し伸べて助けてくれていたのにそれをしたところで何も埋まらない。
 エメトセルクでさえアゼムの望みを叶えることは出来ない。
 ただただ、失っていくだけだ。
 アゼムは瓦礫になりつつあるアーモロートを駆けながら友の姿を探した。
「ヒュトロダエウス!」
 今や安全な場所は限られている。市民が避難し、そこで待つのは贄となる人々もまた同じだった。集団の中に見慣れた明るい髪の毛を見つけるとアゼムは彼の名を大きく口にして呼び止める。
 その声に気が付いたヒュトロダエウスはゆっくりと振り返り、
「やあアゼム」
 と、いつもと変わらないにこやかな声色で返事をした。白い仮面の奥の瞳も普段と変わらない輝くアメジスト色だ。
 アゼムは息を切らして彼に追いつくと呼吸が落ち着かないままで唇を何度か動かしたが言葉が出てこなかった。
 彼の胸には十四人委員会としての赤い仮面がゆらゆらと動きヒュトロダエウスは集団から取り残されアゼムと二人きりになる。遠くで建物が倒壊する音が聞こえた。
「どうしたんだい、そんなにワタシに会いたかったのかな?」
 肩を小刻みに揺らすと三つ編みも揺れた。普段と何一つ変わらないことに安堵もするが、それが余計にアゼムの真核を抉り続ける。
 今からどこに行こうというのか、アゼムにはわかっている。あの大きな門をくぐっていけばもう彼とは会えなくなる。
 この世界でも、星の海でも再会することはない。
 それはもちろんヒュトロダエウスもわかっていることだった。
 アゼムの青い瞳がまっすぐにヒュトロダエウスを見上げたかと思ったらすぐに狼狽し地面へと落ちる。握り締めた拳に爪が食い込むのがわかった。この行き場のない感情を言葉に出来るほど自分が器用でないことが歯痒い。
「……」
 アゼムは黙ったままただそこに佇み、言葉を探してはまた奥歯を噛み締める。
「アゼム」
 ヒュトロダエウスはくすりと笑って、どうして彼が黙ったままなのかを察してアゼムの肩に手を置いた。
「キミはキミのしたいことをすればいいんだ、ワタシだってそうしているのだから」
 これはワタシの意思だと、ヒュトロダエウスは冷たい風に乗せて言う。
「ワタシも一応それなりの地位にいる人だからね、きっと悪いようにはならないさ」
 アゼムがなぜ自分を呼び止め黙ったまま俯いてしまっている原因はわかっている。けれどその原因と結果はもう変えられないことをお互いは知っている。
 引き留められたところでヒュトロダエウスの意思は変わらない。
 それはもう一人の友であるエメトセルクもわかっていたから彼も何も言わなかった。ただ悔しそうに眉をいつも以上に顰めて彼を見送った。彼もまた本当ならばアゼムと同じ気持ちなのだろう。
 どうにかしたくてもどうにもならない。
 これが今の最善なのだと信じて進むしかないとエメトセルクとしての座である責務もそうさせるのだろう。
「だけど」
 アゼムは絞り出した声でヒュトロダエウスの発言に首を振った。
「だけど、それでも、俺は嫌だよ」
 こんなことを彼に言うのか卑怯だろうか。
 ひっくり返すことなど出来ないことでも、それでも行ってしまうのは嫌だと引き留めることがヒュトロダエウスを困らせるかをわかっている。
 それでも、アゼムはその伸ばした手で彼の腕を掴み離したくないと握りしめた。
 ヒュトロダエウスはその真っ直ぐすぎる言葉に苦く笑うと、
「まいったな」
 と続けた。
 アゼムに行かないでくれ、と言われることがこんなにも嬉しいものなのかと心のどこかで沸き立つものがあった。
 この星に必要とされていて生きてきて、この星のためのこの命を尽くそうと決めたというのに心を許した友の一人にこうして腕を掴まれ懇願されることでその使命が一瞬でも消えてしまいそうになったのだ。
 たった一人の青年が行くなと率直に言う言葉を、とても大切で愛おしいと思った。
「アゼム」
 その声は子供をあやすように優しく柔らかい。
「キミに、そう思ってもらえたことでワタシは十分な命だったんじゃないかな」
 掴まれた腕の手を外すとそっと握り締め包みながら、ヒュトロダエウスは微笑んだ。その笑みをアゼムはゆっくりと潤ませた瞳で見上げた。
 込み上げる感情はその雫となって眼から悔しそう零れ、頬を痙攣させる。本当に行ってしまうのだという淋しさと自分の無力さにその涙は止まらない。
 別れがつらいと思うのは旅先ではいつものことだったが、こんな形で失うのは自分の身体の一部を失うよう痛さだった。
「キミはワタシのために泣いてくれるのだね」
 その温かくて冷たい涙をヒュトロダエウスは拭う。
「キミだけだ」
 ワタシのために泣いてくれる人はキミだけだ、ともう一度復唱してアゼムをそっと抱き締める。
 ああ、なんて居心地がいい場所なんだろうか手離したくないと思うほどのその太陽の輝きの魂に擦り寄る。この魂の輝きをずっと見ていられないことだけが名残惜しい。
 しかしその魂がまだこの世界でやるべきことをするためにワタシはこの命を使うことに決めたのだ。
 この手を取ることがワタシの選択ではない。
「キミはキミのしたいことをするんだ、いいね。これが最後じゃないんだ、またきっと会えるさ」
 この世界はまだ絶望に堕ちたわけではない。
 救うための創造魔法から生まれ、世界をあるべき姿に導いてくれる。そうヒュトロダエウスも信じ愛しい友たちが生き延びて、きっとまたいつか会える日がくることを。
「アゼム、元気で」
 ヒュトロダエウスはそう爽やかに告げるとアゼムの身体を離して踵を返した。その黒い背中とラベンダー色の三つ編みが揺れるがもう振り返ることはない。
 名前を呼んでも、決して。
 アゼムはその竦ませた足のまま、ヒュトロダエウスの姿が消えていくのを見送った。もしかしたらもう一度手を伸ばせば帰ってきてくれたかもしれない。
 いいや、そんなことはない。
 それでも俺は嫌だというわがままを振りかざしてヒュトロダエウスを困らせてしまっただけだ。ごしごしと瞼を手の甲で擦ると痛くて熱かった。
「最低だ」
 自分に対してそう吐き捨てると、後ろに立つ人の気配がして振り返った。
 しっとりと涙で滲んだ瞳はその姿を捉えると唇を噛み締めた。
「エメトセルク」
 煤で汚れたままの頬と白い髪、眉間に作られた皺はいつもより深くて固まっているように見える。
 泣き腫らした自分の目とは違い、その金色の瞳は乾ききっていた。
「行ってしまった」
 アゼムはゆっくりと彼に歩み寄るとそう吐いた。
「どうして、どうして」
 そんなことをエメトセルクに聞かせても、彼は何も答えてはくれない。アゼムをただじっと視線で追うだけだ。
「……君は、泣かないんだな」
 エメトセルクとヒュトロダエウスがどんな別れの挨拶をしたのかは知らないが、きっと彼は自分のように涙など見せなかったのだろう。
 エメトセルクは強い。
 俺は弱い人間だ。
 だからいつでも助けてと願ってその手を取ってもらう。
 その手を取ってくれるのはいつでもエメトセルクだ。
 アゼムは唇を震わせるとどこにも行けない怒っているのか悲しんでいるのはわからないぐちゃぐちゃの感情を吐き出したくてエメトセルクの胸を拳で殴った。どん、と重い感触にエメトセルクの肩が揺れてそのアゼムの手首を優しく掴んだ。
「私が泣いたところで、あいつの意思は変わらない」
 伏せた双眸の黄金が一瞬滲んだ。
「お前が泣いて行くなと言っても変わらない。お前だってわかっていただろう」
 そんなことを言われなくてもわかっている、とアゼムは反抗したかったがエメトセルクの顔を見上げれば続く言葉はなかった。
 一度も見たことがない、苦悶した顔だったからだ。悲しいのは自分だけではないことを知りさらに身体に沁み込む悲憤が心臓の辺りを痛めた。
 エメトセルクもアゼムとは違う行き場のない感情に戸惑い嘆いている。
「エメトセルク」
 アゼムはエメトセルクの胸に額を押し当てると、もう一度小さく名前を呼んだ。
 彼は泣かないのだ。泣いてはいけないのだ。
 そうしないのは自分が泣いているからだ。
 アゼムは縋るようにエメトセルクの腕を掴むとそのまま嗚咽しながら泣いた。その震える頭を何も言うことなく撫でてやった。
「あいつはまた会えると言っただろ?ならそう出来るよう、私たちは最善を尽くすしかない。そうだろう?アゼム」
 この世界の今がどれだけ絶望しても残された命までもが絶望しては何の意味もない。
 我々は間違っていないのだ。間違っていてはいけないのだ。
 突き進む未来に間違いはない。
 エメトセルクはそう信じていた。
 だからアゼムにもずっとこの手を取っていて欲しくて離したくなかった。離せばヒュトロダエウスと同じように一人で消えてしまうのではないか、そんな気がした。
「お願いだ、エメトセルク」
 いつもと違う嗄れた声が請うた。
「俺はもう泣かないから、君が泣いてくれ」
 自分がこうしている限りエメトセルクは誰かを失うことを嘆くことはないだろう。自分がエメトセルクを頼るあまりに彼はいつだってこの胸を無条件で貸してくれる。自分ばかりがそれではエメトセルクは一体誰を頼ると言うのか。
「馬鹿だな、お前は。気が済むまでお前が私の分まで泣けばいい」
 何を言い出すかと思えばとエメトセルクは少しだけ気を緩めた笑みを浮かべ、アゼムの赤くなった目元を摩った。
「だからお前はこれから危ないことを一人で決めて行くな」
 彼はいつだって危険を顧みずに一人飛び出す癖がある。そんな人にこんなことを言っても約束してくれるとは思ってはいないがそう言っておかねばエメトセルクの心のざわめきは収まらなかった。
 どんな言葉でもいい、繋ぎとめておけることが出来るのであれば。
「しないさ、その時は君も一緒だ」
 アゼムはいつだってそうだろう、と目元を緩めて笑った。
「そうしていつも巻き込まれるのは私の方なんだぞ」
 エメトセルクがため息交じりにそう呆れたように言えば、
「これからだってずっとそうするよ」
 と、無理矢理に白い歯を見せてまた笑った。
 目元はまだ濡れて潤んでいるというのに空元気に笑うその姿が今にも薄れていきそうでエメトセルクは喉からひゅっ、と乾いた息が零れた。
「もし俺がいなくなったら、君は泣いてくれるのかな」
 ただの興味本位だった。
 ヒュトロダエウスと別れても涙を見せないその人は一体どうしたら泣いてくれるのか。もし自分も同じようにもう会えなくなってしまったその時はやっと泣いてくれるのろうだろうか。
 エメトセルクはその答えにくしゃりとアゼムの髪を乱暴で掻き混ぜる。
「ふざけてもそんなことを易々と言うな大馬鹿者め」
 その声色がほんの少し、少しだけ怒っていて震えている気がしてアゼムはすぐに謝った。
「悪かったよ、エメ──」
 最後まで言う前にアゼムはエメトセルクに圧迫してしまうほどに抱き締められた。
 遠くに行ってしまった友を見送って、もう二度とそんな思いはしたくないとその身体に触れる。黒く汚れて冷たいその手に伝わる体温だけは確かなものでそれだけが支えであるように、アゼムも縋りたくなった。
「ちゃんと私を呼べ、アゼム」
 どこに行こうが最後には私の名前を呼べばいい、いつものように。
 そうすればいつだってどこにだってお前を助けてやる。
 だからお前だけはどこにも行くなと願うように、エメトセルクはアゼムの肩をいつまでも強く抱く。
「……君がいてくれる人生はなんて素晴らしいんだろう」
 燃える空の下でそんな気持ちにさせてくれる人に出会えたことを生きていて嬉しかった、と思える日はないだろう。
 誰かのために泣いてくれる人がいることは幸せなことだ。
 だからアゼムはエメトセルクがいつか自分のために泣いてくれることを願うことにした。そんな日がくるのか、それとも来ないままなのか、それはわからない。
(ああ、君のことが本当に、本当に好きだ)
 この力強くて息苦しくなる熱を独り占めしている自分に心酔しながらゆっくりと瞼を閉じる。


 それから数日後に、アゼムは十四人委員会を誰に告げることもなく一人離脱した。

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