
泳ぐキスと溺れる言葉
ワインレッドのソファに身体を預けながら一冊の本を読む。柔らかすぎず硬すぎずの感触は心地良い座り心地だ。深く背を預けて足を投げ出して、黄ばんだ紙に羅列する文字を眺めながらアゼムはちらり、と隣の男へと視線をずらした。
肩と肩が触れ合う距離で並んで座り片方は駄々草に本を読みながらあくびをし、もう片方は真摯な目で小さな文字を追っている。
別に本を読むのが嫌いなわけではないが勿体ないな、とアゼムは一人内心でごちる。
「この本を読み終わるまではじっとしていろ」
と、言われてしまい仕方なくアゼムは大人しく言われた通りに座って待っていたが、待っているだけではそのうち寝入ってしまいそうで彼の本棚から何冊か拝借してきた。魔道はもちろん専門書から世界の歴史、さらに歌劇ものまでと幅広い品ぞろえだ。適当にとってきたものの、専門書なんて開いたところで頭が痛くなるばかりで自分には向いていない。
魔法とは想像と閃きだ!
そう言えばヒュトロダエウスは喜んでくれたが、この仏頂面のエメトセルクは呆れた顔で、
「行き当たりばったりなことをしているからいつも面倒事を起こすんだ」
とお説教じみた地響きみたいな声で唸った。
いつも顔を合わせればため息が絶えないエメトセルクだがそれは決してアゼムを見限るや嫌いだからというわけではない。
彼は彼なりに心配しているし信頼もしている。
窓から覗く白く光る月は半分だ。
今宵はとても天気が良く雲一つなかったためその薄明かりが部屋まですっと伸びてくる。
その静かな部屋にぺらり、と薄い紙をめくる音が静かに消えていく。
アゼムは唇を結ぶとつまらなさそうに自分も一ページ捲った。
(せっかく二人でいるのに)
旅の話ももちろんだが、話したいことはいくらでもある。一つ話をしたってまた次に沸いてくる話題を早く君と話したい。
そして触れたい、とも。
アゼムは本を片手にもう一度エメトセルクを見る。
その金色の綺麗な瞳はずっと文字だけを追っている。高い鼻先、整った横顔にかかる白い髪は月の色を吸ってさらに白くて銀色にも輝かせていた。
引き締まった薄めの唇からは小さな息が零れる。
青いアゼムの瞳はゆっくりとエメトセルクの横顔を観察し、そして思わず唾を飲み込んでしまった。
それは彼が美しい人だからだ。
自分の無骨な指とは違ってページを捲るその指はしなやかで、大きな大剣を握る手だとは思えないほどに綺麗だった。彼がその手に大剣を持ち振り翳す姿など見たことないだろう。自分は知っているけども、とアゼムは少しだけ口角を上げた。
知らないエメトセルクを知っているのは自分だけだという愉悦からだろうか。その無口な唇がいつもどこに触れて何を囁くのか──。
ふとエメトセルクは足を組み替えて姿勢を少し直すとアゼムへとその金色の眼を動かした。突然目が合ってしまったことに自分が何を考えていたのかを悟られてしまったのではないかと、身体を固まらせた。
何と言ったって彼は魂の色が視えてしまうのだ、考えていたことだってもしかしたら筒抜けなのかもしれない。
「さっきから人の顔ばかり見ているな」
「えっ、あ、ごめん!」
アゼムは思わず魅入ってしまった、という言葉が浮かんでしまい慌てて謝ったあとに背筋を伸ばしながら言葉を続けた。
「少しだけ嫉妬」
「嫉妬だと?」
何をいきなり言っているんだとエメトセルクの片眉が動く。
アゼムはエメトセルクに凭れるようにして身体を傾けると彼が持っている本を素早く取り上げた。
「おい」
取り上げられた本を掴もうと手を伸ばしたがアゼムがその手首を掴んで、ふふんと笑った。
「君はさっきから俺を放置してこの本と楽しい時間を過ごしているようだ。俺といるというのに君はずーーーっとこの本ばっかりで俺を見てくれないじゃないか」
膝と膝がこつりとあたって距離はもっと近寄った。エメトセルクの顔をアゼムが下から覗き込むと青い目が食い気味に滲んだ。
「お前な」
嫉妬の相手とは本のことか、と呆れたエメトセルクは肩を大きく揺らしてため息を吐いた。まさかそんなことを言われるとは思ってもみなかった。
子供ならまだしもお前は大人だろう、と窘めてやろうと思ったが今夜はアゼムの方が上手だった。
エメトセルクが読んでいた本を閉じてガラスのテーブルに置くと、身体をソファから浮かせてエメトセルクへと向ける。アゼムは上半身を起こすとすっと手のひらをエメトセルクの腿の上に置いて、這い寄るように顔を寄せるとその距離はただの近さだけではなく特別なものになる。
降ってくる青い視線は海のように広くて深くて丸い金色の眼が沈んでしまう。
「なぁ、エメトセルク……」
少し声を上ずらせてアゼムはエメトセルクを呼んだがその後の台詞がなかなか喉から出てこない。
あまり自分から大胆は行動も言葉を吐いたことがないことを今更思い出して、言いたいことが切り出せないでいたが今自分がしたいこと、して欲しいことを熱い吐息に乗せて紡いだ。
「君とキスしたい、エメトセルク」
頬に吹きかかる吐息と言葉にエメトセルクは身体を強張らせてしまった。
そんなこといつでも出来たししていること。しかし言葉にされて求められると、心臓がギュッと縮んでたくさんの血液を放出し始めた。
キスがしたい、そんな台詞一つで自分の体温が上がることに情けないなんてことを思ったがそれは逆らえない感情と欲情だ。
アゼムは強請るように目を細めてエメトセルクの輝く双眸を見つめた。
「エメトセルク」
アゼムが口を開けばその唇にエメトセルクの指の腹が掠った。エメトセルクの手がいつしかアゼムの腰を掴んで引き寄せるとテーブルに足が当たってしまい、本たちは絨毯が敷かれた床へと落ちたが二人共気に留めなかった。
「アゼム」
至近距離、鼻と鼻、額と額が擦り合ってアゼムの前髪がくしゃりと乱れた。
キスされると思ったアゼムは目を閉じかけるが乾いた唇に触れるものがなかった。
「何をして欲しい、と?」
エメトセルクは喉で笑いながらそう、アゼムに聞き返す。アゼムはその声に背筋がぞくぞくと寒気がするよう震え、頬をほんの少し紅潮させた。期待していたのが自分だけでからかれたことが腹が立って悔しいのだ。
「君ってほんとにほんと意地が悪い」
「なんとでも言え」
フン、と鼻で笑うと温かくなった手のひらがゆっくりと頬を摩って髪を避けると耳たぶへ触れる。またぞくぞくとした寒気と熱さで腰が疼いた。
「意地悪エメトセルク、性悪エメトセルクっ」
「なんとでも言えばいいが、私はただお前が私に何をして欲しいのか、をもう一度聞いただけだぞ。それとも自分の言葉に責任が持てないのか?第十四の座、アゼムよ」
まるでからかうようにしてそう早口で告げればアゼムは頬を膨らませながら彼の肩を拳で叩いた。
自分の方が優位だと思っていたのにあっという間に形勢逆転だ。
いつだってそう。
アゼムはエメトセルクに敵わないし、エメトセルクだってアゼムには敵わなかった。
いつだって二人はそうした関係だった。
「それで、お前は私に何をして欲しいと?ん?」
エメトセルクは視線を外されないようにアゼムの頬を強く包んで自分の方へと向かせる。
確かに自分から言った言葉だったがもう一度改めて言えと言われるとどうも恥ずかしさの方が勝ってしまう。しかしそうしたい、と望んだのは自分からだ。
アゼムはエメトセルクの両腕を掴むと青い丸い目を右往左往させながら震える唇でもう一度、それを強請った。
「キスしたい、て言ったん──」
ああもうどうにでもなってくれ、とアゼムがその言葉を羞恥のままに叫ぼうとすると途中で切れてしまった。
それは一瞬のことで掴んでいた腕を掴み返され、ぐいっとさらに引き寄せられて言葉を続けるために開けた唇は奪われてしまったからだ。
塞いだ唇と唇に隙間はなく、エメトセルクは何度も自分の唇をアゼムへと押し当てながら頭を掴んで逃がしはしなかった。
びくんと身体が反射的に痙攣してしまったが次第にそれは落ち着いていき、身体の中には熱が蓄積されていくのを感じる。前歯と前歯があたっても気にすることなくアゼムは与えられるエメトセルクからのキスを浴びていた。
「はあ、は」
小さな隙間の吐息が濡れている。離れた互いの唇は赤くなり、まだ足りないと燃えていた。
「エメトセルク」
熱を孕んだ色で呼ばれれば、疼く熱が身体の中心から沸き立つ。
もっとこの唇以外にも触れて痕を残したいという欲望に駆られる。
アゼムは腰を浮かして自らエメトセルクに圧し掛かるようにして近づいて、
「もっと君とキスしたい」
そう今度ははっきりと言ってエメトセルクの下唇を食んだ。
そんな風に煽情を乗せて誘われれば断る理由など一切ない。
読んでいた本のことなどもう忘れてしまったし、どこからかももうどうでもよくなった。こうしてアゼムが自分だけを見て自分だけを欲して放っておかれることに苛立って絡みついてくることはエメトセルクだけが知っている姿だ。
「いいぞ、お前が泣いてやめてと言うまでしてやろうじゃないか」
押し倒されたエメトセルクはアゼムの髪を掻き上げて笑った。それはどきりとするほど美しくどこかあどけなさがある艶のある笑みだった。
惹かれ合う魂と魂はそのまま唇をゆっくりと重ねた。最初は触れるだけで啄み、エメトセルクがアゼムの項に手をあてて引き込めば深く、しつこく吐息を奪った。
目の奥が熱くなってきて酸素が回らない。
吐き出す息はすべてエメトセルクに吸われて食われてしまう。
(ああ、なんて温かいんだろう)
アゼムは繰り返されるキスの逢瀬に蕩けそうになりながら思った。
心臓の音はどんどんと膨れ増していき蕩けるキスを堪能しそれ以上の熱量を期待していく。
口の中で混ざり合う唾液が飲み込めず口端から垂れていくとエメトセルクの顎へと伝ってしまったが彼はそんなことを気に留めることもなかった。乱暴にも思える口づけでも口腔のではお互いのざらついた舌を擦り合わせて隅々まで彼は自分のものだというマーキングをする。
粘膜の絡んだ音が耳を刺激してさらに体内に甘くて痺れる毒が浸透していくと、いつしかアゼムの身体はエメトセルクと向き合うように起こされていた。エメトセルクはアゼムの荒い吐息を盗みながら黒いローブの胸元にあるチャックを引き下ろして急くように脱がせる。
「ぁっ、はぁ」
唇が解放されるとアゼムは新鮮な空気を肺へ送り込み、滲んだ青い瞳を同じようにほのめく金色の目が出迎える。
素肌を摩るエメトセルクの手の熱さに身体が少し跳ねたがすぐに慣れた。その体温が心地良くてアゼムはまたエメトセルクの唇へと自分から齧りついて腕を首に回す。
キスが気持ちいいだなんて、それは知ってる人しか知らない事実だ。
キスをしているだけでもう身体の奥は火照り欲情した雄には血が溜まりだんだんと固く誇張していく。
いつかキスだけで達してしまうんじゃないか、という怖ろしいことを考えてしまいそんなまさかと笑いたくなった。
「はぁ、はぁ……ぁ」
乱れる吐息を愉しむようにエメトセルクの手が肩から二の腕、胸へと滑っていくとその手が止まったのは平たいが逞しい胸板だ。その両方に血色の良い粒が二つ震えているのを見つけると片方を指の腹でゆっくりと押し潰しさらに摘まんだ。
そうするとアゼムの肩が大きく揺れて息を飲む音が聞こえ、欲情を掻き立てられる。
「あっ、……う」
エメトセルクの指先が何度もその行為を繰り返すとその粒が赤く咲くように色づいてみせる。その間もなお、エメトセルクはアゼムの唇を貪るのをやめはしない。
アゼムが少し背中を逸らして逃げ腰になると、エメトセルクは引き寄せるのではなく彼を軽く突き飛ばしてソファへと身体を倒させた。
端に置いてあったソファと同系色の枕がちょうど頭に当たった感触があって痛くはなかった。
「アゼム」
覆いかぶさる影が重なると名前を呼ばれ、彼は首筋へと顔を埋める。白くて銀色にも見える髪がくすぐったくてアゼムは頬を赤らめながら喉で笑う。
しかしその笑いはすぐに湿り気を帯びた声色へと変化する。
アゼムは身体をびくりと震わせて、唇を噛んだ。エメトセルクの手がゆっくりとゆっくりと臍から下肢へと下りて行き、自分の膨らんだ熱に触られてしまったからだ。その脈打つ熱の在処を彼の手が揉むようにして手のひらで遊べばさらにアゼムは息を詰めた。
「っ、あ」
声にならない声が喉を通り、息と一緒に空気へ逃げる。
エメトセルクはアゼムの苦悶する様子を見下ろしながら熱の形を辿った。
「あ、んまり見るな、って」
人が羞恥に溺れる様を魂をも見透かす輝く瞳に見られては裸どころか骨まで筒抜けになっているのではないか、とすら思える。
エメトセルクは鼻で笑うと、
「何を今更言っているんだ」
そう返してアゼムの鎖骨を舐め下った。
温かい舌の感触はそのまま下へ下へと感触を残しながら這っていくと、自分の臍まできて止まる。そしてエメトセルクはアゼムのズボンを下着ごと強引に脱ぎ下ろしてその熱を空気に晒した。
「ひっ、待っ、……って」
アゼムの待てなど聞けるわけもなく、薄く生えた体毛を撫でながらその屹立した雄を手でやんわりと握られると堪らず嬌声が零れる。
膨らんで硬くなったその茎は血液を集中させて彼が直接触れればもっと欲情を淫らに膨らませた。あっという間に身ぐるみを自分だけ剥がされてしまい、アゼムは文句を言いたかったが口から漏れるものと言えば悶える吐息だけだ。
摩る手の温かさと自分の熱が混ざり合う温度が気持ち良くてアゼムは蕩けた青い瞳でエメトセルクを見上げ短い睫毛を震わせた。
「あぁ、は」
彼の手が何度も繰り返し上から下へとその手のひらで熱の向きに合わせて扱けば先端から溢れる透明の液体が茎を濡らしていく。嫌だと首を振ってもその手は止まらず、緩急付けて動かせば、腹の底から湧き上がる快感に逆らえなくなる。
裏筋をエメトセルクの親指が擦るとアゼムは両足を痙攣させて、腰を小さく揺らした。むず痒くてもっと刺激が欲しいと強請りたくなる衝動があった。
それを知っているエメトセルクはアゼムの気持ち良さそうなため息を聞きながら今度は口元に陰茎を運んでくるとそのまま咥えてしまった。
「や、っだ……エメっ」
自分の熱く滾ったものを彼が口に咥えられるとアゼムは驚きと愉悦に声を上げる。舌先が竿の先にある凸になったカリの部分を舐めると指では味わえない生温かい感触に脳内が溶けていきそうだった。
先端から零れる雄の液体と匂いが独特だ。嗅覚がその匂いに満たされるエメトセルクは舌全体を使って舐め回す。アゼムは声を詰まらせ、彼の髪の毛をくしゃりと掴んで悶え、じんじんと這い上がってくる快感に浸った。
「あ、ぁだめ、っ……はな、して」
このまま彼に続けて熱を吸われればその口腔に吐き出してしまうかもしれない、とアゼムは首を振って訴えるがエメトセルクは離してくれそうにない。
唾液が淫らな音を立てて咥内で苦い味を纏わらせながらアゼムの雄が限界になってくるのをエメトセルクは待っていた。
どうすれば一番気持ちがいいのか、どこが一番刺激をすれば身体の奥の熱を誘き出せるのかよく知っている。だからアゼムが理性を保ちながらだめだと言ってもやめはしなかった。
「はぁ、あ……も、出るっ」
エメトセルクの湿った口腔が自分の陰茎を何度も擦り、亀頭を吸い上げるようにして口を窄められるともう限界だった。
脈打つのその熱量を吐き出さないと腹に中で溜まり気持ちが悪い。エメトセルクの口の中に出すまいとする自分とさっさと吐き出してしまえばいいと言う自分が葛藤をしていたが、なけなしの理性では後者には勝てなかった。
「あぁ、あっ──」
アゼムは身体を大きく震わせると彼の口腔へと劣情を吐き出してしまう。
エメトセルクは咥えた雄の先端から勢いよく飛び出してきた白濁の液体を喉へと下すとその粘つく感触と苦さに嗚咽しそうになったが吐き出し終わるまで離さなかった。
アゼムはぎゅっとエメトセルクの頭を押さえ付けながらその熱が納まっていくのを待ち、大きな息を繰り返す。
出してしまった、という後悔があったがそれよりも快感の方が強い。
「……アゼム」
ようやく唇を離すとその舌の表面は白く汚れている。口端を手の甲で拭うと、荒い呼吸を繰り返すアゼムを見上げた。
「随分と気持ち良さそうだったな」
そうからかい交じりに言えばアゼムはもっと耳を赤くて、
「君がそうしたんじゃないか」
と、吹っ掛けた。
誰でもそうなるわけじゃないし誰でもいいわけじゃない。
君がそうさせたんじゃないか、と言い返せばエメトセルクは喉の奥でくつくつと笑った。それもそうだと。
まだ白い液体を吐き出し続けている熱の先をエメトセルクの指が弾くとぐったりとしていたアゼムの身体が大きく跳ねる。
力を失ってしまったとは言え触れれば感度は敏感になっている。再度触れられればまたその熱は少しずつ溜まっていきそうだった。
「あ、う」
流れ汚れる精を指で掬えばアゼムの後ろの小さな穴へと宛てるとアゼムがまた呻く声を漏らし始める。
「エメトセルク、」
片足の膝裏を掴むと腰が少し浮く。その足をソファの背もたれに掛けるようにして開かせ、隠れた窄まりに濡れた指先がくるくると入り口を解すように撫でればそこの穴は期待するように蠢いた。
エメトセルクの指先がそこへとゆっくりと押し入ってくるとアゼムは喉へと冷たい空気を吸い込んだ。狭くて人の指を飲み込めるはずがないがアゼムのそこはもう知ってしまっている。指よりも熱くて太く長い質量を。
だから指の先など痛いとも思わなかったが乾いているうちはまだ痛みの方が悦びより先だった。とろとろとまだ零れている雄からの体液が間を縫っていけばエメトセルクが解そうとしている箇所を濡らしていく。
湿り濡れる音がだんだんと大きくなってくると指も第二間接ぐらいまで入っていき、そこからもう一本と増やしていった。
「もう二本入ったぞ、アゼム」
エメトセルクがアゼムの耳元でそう告げるとアゼムは真っ赤にした耳をさらに熱くして、唇を噛んだ。
「言わなくても、わか、ってる」
彼の指が自分の狭い肉壁を何度も擦り上げて出入りする感触に背中がぞわぞわと寒気にも似たものが走ってくるのを感じている。誰でもないエメトセルクが自分のそこで得られるもう一つの快楽を教えてくれたのだ、彼の指がどう動いてくれるのかも知っていて期待している自分がいる。
その期待に応えるようにエメトセルクは指を中で曲げて一点を突けば、アゼムの腰が跳ねた。
「あ、っぁそこ」
緩くまた勃起を始めた雄に刺激された内部にこりこりとした小さな硬いものが指先に当たると目の前に光がちかちかと弾ける色が見えて、残った理性が吹っ飛んでしまいそうだった。いつの間にかテーブルの上にさっきまではなかった小さなボトルがあるのが見えた。エメトセルクはそれを自分の指に垂らして、また臀部の窪みに滑りを擦りつける。さらに肉壁はその潤滑液によって解されると指の動きをよくし、濡れた音をもっと振動させた。
アゼムは口元を抑えて漏れてくる声を咥内だけで咀嚼しようとするが、噛み合わせた前歯から吐息と一緒にくぐもった声になって漏れてしまう。
そこを刺激されるとさらに小さかった塊が大きくなって、同時にまた自分の雄が浅ましく屹立していく。
「うっぁ、あ……だ、め」
だめと言いながらもアゼムはすっかり快楽に溺れ、痺れる身体になっていた。
眼に薄ら涙を浮かべて言葉では否定しながらも身体は素直に反応し、組み敷いている姿を見下ろしてエメトセルク自身も興奮しないわけがない。下半身は欲情し、その熱を早くアゼムの中へと埋めたくて仕方ないと誇張している。
火照った身体と思考ではまともなことはいつだって考えられない。ヒュトロダエウスに言わせれば、
「余裕がないキミが見れるのはアゼムだけだろうね」
と、笑われるに違いない。
いつからこの男を抱きたいと思い触れたのか。平静を装いながらもアゼムがアーモロートに帰ってきたと聞けば早く独り占めにして触れたいと思うようになった。
自分は自分が思っている以上にアゼムに狂わされているのだと嘲笑する。
「アゼム」
エメトセルクは額に汗を浮かべ、名前を呼ぶと彼の中を弄っていた指を引き抜いてそのままぐったりとしている彼を抱き起した。
重たくなった身体がエメトセルクに寄りかかり、頭を肩へと預けるがすぐに顎を掴まれて荒く呼吸をする唇を吸われた。意識が半分ばんやりとしている中、アゼムはキスをされながらエメトセルクの下肢へと手を伸ばす。
するとそこには自分と同じように硬く熱くなったものが布越しでもはっきりとわかる感触に肌が粟立った。
諫めるようにエメトセルクはその手首を掴んだが、アゼムはエメトセルクの金色の双眸から目を離さずに吐息を押し出して囁いた。
「君も、硬くなってる」
直接じゃなくてもその形を辿るように指が動けば、エメトセルクは吐息を零してもう一度アゼム、と言って頬に頬を擦り付けて唾を飲み込んだ。
「アゼム、立てるか?」
エメトセルクは急にそう言ってまずは自分からソファから腰を浮かせて立ち上がった。思えばここはベッドではなかったことを思い出し、アゼムはああとエメトセルクの後ろに見える扉が開いたままの部屋の方へ視線と飛ばした。
うん、と頷いて立ち上がるとエメトセルクに引かれて寝室へと足を向け、雪崩れ込むようにベッドに転がった。全裸である自分とは違ってエメトセルクはまだ服を着ていたが、アゼムがベッドに身を投げ込めば乱暴にローブもズボンも脱いで同じように生まれたままの姿になればすぐにアゼムへと覆いかぶさる。
ソファの狭さがないため、広々としてひんやりとしたシーツの海に肌が擦れるのが気持ち良かった。
薄暗い中でもはっきりと輝くのはお互いの宝石のような瞳だ。見つめ合って溶け合うと唇を重ねて名前を呼んだ。
エメトセルクの手が腰から内腿へと這っていくとびくりとアゼムの身体が震える。はあ、と重たい吐息を漏らして胸からせり上がってくる熱に触れた箇所の肌が焼けそうだった。乱雑にお互いの熱が擦れ合うと身体の奥が疼いて仕方ない。
「アゼム、反対になれ」
エメトセルクはアゼムの向き合いになった身体を四つん這いにさせると、腰を上げさせる。
枕に顔を埋めて言われた通りに腰を突き出して少しだけ股を開けば疼いた箇所がエメトセルクからはよく見えた。彼の手のひらが臀部を撫でてほんの少しくびれた腰を掴むと自分の熱情を宛がった。
「あ……っ、う」
アゼムは震える息を吐き出してぎゅっ、と瞼を閉じる。
エメトセルクの雄の先端が自分の中にゆっくりと挿ってくる感覚はいつだって重たく指とは対比にならないほどの硬さと熱さだった。
隘路に埋め込まれたその肉欲の形に沿って彼を導くように蠢くのだ。
頭のてっぺんまで痺れてきて強烈な感覚に声は抑えられなかった。
「う……ぁあ、っあ」
甲高い女性の艶めかしい嬌声ではない。呻いて苦しそうな声で色気の欠片もないとアゼム自身は思っている。声を我慢していても結局は鳴かないとどうにかなりそうだった。硬くて太いものが小さな穴の浅い内部を抉り、また先っぽを残して出て行く。内臓が押されまた戻される、そんな不快でもあり、快感でもあった。
襲いくる熱波に魘された脳内はもう焼き切れた思考しか残っていない。
「あ、エメっト、セルクっ」
食いしばった歯の間から声は切羽詰まったものだ。エメトセルクが浅い挿入だったものを次の時にはそのまま奥へと埋め込んだからだ。
狭い肉の壁を熟みながらすべての茎をアゼムの中へと沈めてしまうと、そのきつさに食いちぎられるのではないかと思うのはいつものことだった。
「全部挿ったな、わかるか?」
そう言ってエメトセルクはくっつけた腰で円を描くように揺らせばアゼムの足先がシーツに食い込んで引っ掻いた。
「うっ、うう」
返事をしたつもりだったがそれはただの唸り声になってしまっていた。
エメトセルクは上半身をアゼムの背中にくっつくほどに曲げて枕を掴んでいる彼の手の甲に手を重ね指の間に指を絡める。
ねっとりとした熱い吐息が項を掠り、アゼムは背中を撓らせた。
「お前のここはいつでも私の形を覚えているな、すっかり慣れてしまっているぞ」
彼の言う通り、自分のその一本の空洞はエメトセルクの熱欲を受け止める形をよく知っている。だから彼の欲望が入ってくると隙間なくその屹立して涎を垂らしている雄を満たすために煽動する。
わざわざそれを言葉にされるといっそうに身体は火照り、血流が乱れてくる。
「それは、きみが、っぁ」
君がそうしたんじゃないか、と威勢よく悪態を付きたかったのだがそうする余裕がなかった。
最後まで言い切る前にエメトセルクが腰を穿つとアゼムはまた開いた口から蕩けた声で啼いた。貫かれるたびに口元からは声だけはなく唾液が零れ、枕に染みを作ってしまっていたがそんなことはどうでも良くなるほどに腰から広がる甘い痺れに全身がふわふわとしている。
重ねた手は重たく握り押えて離さない。
「あ、ああっ……は、っ」
玉の汗が背骨の窪みに浮かび、腰を揺すられるたびの丸みを帯びた臀部は赤くなってきている。内臓が押し上げられて口から出てしまうんじゃないかと思うほど深くて苦しいのに五感が感じているのは痛みではなく悦楽だ。
滑りを帯びてきたそこからは肌がぶつかる乾いた音と湿りぐずった粘る音。
エメトセルクはアゼムが逃げられないように何度も腰をぶつけ、抉る。暴走するような熱に苛まれ、この背徳感と愉悦を同時に噛み砕いてアゼムの中へ叩きつける。
そんなことが出来るのは私だけだという支配欲だ。
エメトセルクが腰を振るのを急に弱めればアゼム自身が物足りないというように自ら腰を振ってくる。
もっと欲しい、と強請るように。
顔が見えない分そうした欲求と錯覚に麻痺していく。
「アゼム、っ」
エメトセルクは両手で腰を掴み直すとパンっと大きな音を鳴らして穿った。膨れあがった熱は何度も擦り絶頂を目指して官能の炎を燃やす。
激しさを増した抽送にアゼムは奥歯を食いしばり、沁み込んでいく甘い猛毒に犯されていく。どくどくと波打つ欲望が弾けることを待ちわびてアゼムはエメトセルクをきつく締め付けた。
その一瞬のきつさにエメトセルクはぐっ、と根元まで埋めてしまうとぶるりと身体を震わせる。
「っ──」
そして目が霞むほどの貪欲な熱のままにエメトセルクはアゼムの中へとその精を流し込んだ。
勢いよく腹の中へと灼熱の欲が流れ込むのを感じるとアゼムも身体を震わせてその欲情の波を受け止めた。まるで自分が達したかのようなみだらな気持ち良さだった。
「はぁ、はぁ……」
流し込んだ精液を一滴も零すまいとエメトセルクは雄を埋めたままアゼムの背中に圧し掛り、汗が滲んだ肌にキスをする。しょっぱいこの味はセックスの時にしか求めれない味だった。脱力したアゼムの身体がゆっくりとベッドに沈んでいく中でエメトセルクは肩、背中へとキスを繰り返せばアゼムはくすぐったくなり少しだけ口元を緩めた。
それから埋めた雄をアゼムの中からずるりと引き抜けば圧迫感がなくなり、アゼムは身体を震わせてベッドへと突っ伏した。
「エメトセルク」
枕から顔を上げれば涙と唾液に汚れていてあまり人に見せれない顔をしている。
呼吸を整えながら上半身を捩じり起こしてアゼムは同じようにまだ火照っているエメトセルクをぼんやりと見上げ、
「キスはこっちがいい」
と言ってエメトセルクの唇に唇を押し当てた。
最初にキスを強請ったのは自分だ。そのキスはもっとして欲しいしまだ足りないんだとアゼムはもう一度せがむ。
「あっ」
エメトセルクはそんな風に煽られるとは思っていなかった不意打ちにまた身体の奥から湧き上がる底なしの熱に舌打ちをするとアゼムの身体を正面にさせた。ベッドが軋んで少しだけ身体が跳ねる。
すぐに見上げた黄金色の瞳が二つ降ってきてそのまま噛み付くようにキスをされるとアゼムもそれに応えて口を開けた。
「うっあ……、まっ、て」
降ってくるキスに夢中になっていればエメトセルクの手が下肢に触れる。自分のそれはずっと勃起したままで淫らに震えていて、彼の手が自分と同じものを擦り寄せて一緒に手のひらに包めば今にも射精してしまいそうだった。
銀色の糸がお互いの口からつっと伝い、途中で切れる。
「お前は本当に無自覚に人を煽るな」
これが意図していないというのが質が悪い。いつだってアゼムは知らず知らずに人の心に棲み着いてその人たちを魅了していくのだ。
エメトセルクだってその一人だ。
「お前のこれもまたイキたそうにしているな」
耳元でそう雄を撫でながら囁けば、アゼムは涙目になりながら頷くしかなかった。エメトセルクはその滑る手を離すとアゼムの足首を掴んで自分の肩に乗せるとそのまままた股へと自分の腰を押し進めた。
「あ、っまた、きみの」
入ってくる、とアゼムはさっきよりすんなり挿入される熱の塊に後頭部を枕に擦り付けて襲いかかる甘美な痛みに全身を蕩けさせた。
君だってまたこんなに熱くて硬くなってるじゃないか、と言いたいところだったがそんな言葉より嬌声の方が先ですぐに忘れてしまった。
最初とは違いゆっくりする蠕動ではなく奥までいきなり入ると深みを何度もその欲望で抉り穿つ。身体を折り曲げられ担がれた足の指先がピンと宙に中で尖り、筋肉がつりそうだと思うほどだ。
「あぁっ、あ、やだ」
アゼムの手がシーツを手繰りよせて掴み、自分の腹の奥にエメトセルクの熱を感じると同時に自らの雄も腹に擦れて止めどなく汁を垂らしている。
ぐちゅりと淫らな音が幾度も股の間から聞こえ、エメトセルクの獣のような短くて荒い息が顔にかかるとアゼムは薄目を開けた。
自分も人に見せていいような顔ではないがエメトセルクだって同じだ。腰を振ってその種を植え付けるためだけの性欲に夢中になっている。
いつものような眉間に皺も苦しそうだったがそれは快楽に溺れた理性を持たない恥ずかしい顔だ。
自分の視界が揺れて動き定まらないでいると、エメトセルクはアゼムの汗で濡れた額に自分の額をくっ付けるとさらに腰を大きく前後させる。アゼムが大きく息を吸い込めばその下唇を食んで舌先で舐めた。
「はっ、あぁ、えめっ」
その舌に誘われるようにアゼムも舌を出せばお互いの舌を絡めざらついた表面を摩る。舌肉の感触にさらにぞわぞわと痺れるものが熱と一緒に身体を駆け巡りもっと欲しくなってしまう。
舌を吸われてエメトセルクの口腔に引っ張られると彼の歯茎をなぞった。
エメトセルクの呻く声と唾液が絡んだ音が鼓膜から入り、突き上げてくる振動も重なり悦楽におかしくなりそうだった。
境界線もなく淫蕩に溶け合ってしまいそうな、そんな繋がりを感じていた。
アゼムはエメトセルクの首裏に腕を巻き付けると、角度を変えては息をする間も惜しんで唇を重ねる。
「……っぁ、は、も、う」
身体に溜まった熱は今のもまた爆発してしまいそうで、早鐘を打っている。それはエメトセルクも同じでアゼムの中を抉る熱情の温度が跳ねあがっていた。
「……アゼム」
息を切らしながら名前を呼ばれ、困ったように眉を寄せながら見上げるとエメトセルクの額から汗が頬に落ちてきた。
深くまでぴったりと埋めていた腰を乱暴に前後すれば、アゼムの一番痒くて気持ちがいいところを亀頭が擦り付け、それはもう我慢のしようがなかった。
「ぁあ、イっク……っ」
ぎゅっ、とアゼムの腕がエメトセルクを引き寄せると腰を強く掴んで彼に応えるように貫いた。熟れた熱だけを貪っている中はいつ弾けてもおかしくない。
エメトセルクもただその性欲をすぐにでも満たすことに頭の中が支配されている。組み敷いている男も同じように喘ぐ唇から零れる息や声は今すぐに暴れる熱からの解放を待ち望んでいる。
「ああ、アゼム、イッていいぞ」
エメトセルクはそう言って耳朶を食んで自分自身もアゼム同様にその熱の奔流を吐き出したくて欲望に従った。
揺れる身体の間で半端だった陰茎は内部を穿たれた快楽に従順になりエメトセルクに誘われるままにその熱を再度放出した。弾ける熱の感触に全身が痺れ、脳が沸騰するのではないかと思ったほどの甘美で溶けている。
「あ、あぁっ──」
熱くて白い飛沫が腹を汚すと同時にきゅっ、と中が締まりエメトセルクもアゼムの中へと溜め込んだ灼けるような熱欲をもう一度流し込んだ。
吐き出す瞬間は身体が強張ったがその後はすぐに力が抜けていく。
アゼムは大きく痙攣して身体中を浸食するエメトセルクの欲情に満たされ、甘露の海に思考を放り投げてしまう。
まるで池から飛び出してしまった魚のように自分が震えている気がした。そしてエメトセルクも気持ち良さそうに四肢を震わせてアゼムを蹂躙していた。
「……はぁ、ぁ」
身体も精神もオーバーヒートしていて理性はまだ戻ってきそうにない。淫らな熱が官能、悦び、痛み、すべての感覚を麻痺させていてこの熱波に埋もれたままもう眠ってしまいたい、と思うほどに充実していた。
エメトセルクの重たくなった身体が重なってくるとその心臓の音はとても早かった。
アゼムは振り落ちそうな腕に力を入れてエメトセルクの白髪をゆっくりと梳いて愛おしそうに撫でる。
長い息を吐いてエメトセルクの肩越しに見ていた天井の色がようやくはっきりと視えてきたかと思えば、その視界はまたエメトセルクに塞がれる。
汗で張り付いた額の髪を掻き上げてキスをされる。額からこめかみ、頬から鼻先へ。そして最後には唇を奪ってくる。
満たされた後の口づけは多幸感が味わえて好きだった。エメトセルクの足を足先で摩擦すればその肌の温かみも小さなところからでも感じた。
「エメトセルク」
少し枯れた声で呼んでアゼムからもキスのお返しをする。
もうしばらくそのまま繋がっていれば身体の温度が平常へとなっていき、汗が冷えていくと少しだけ寒かった。
「……このまま寝そうだ」
アゼムはぽつりとそう呟くとエメトセルクは身体を起こしてしかめっ面をする。
冗談じゃないぞ、と不満たっぷりに。
「よくこんな汗だくだというのに寝れるな」
「だってもう疲れたし気持ちがいい」
ぽとっとアゼムの両腕がシーツに落ちてもう動きたくない、とアピールしてくる。
「お前な」
そこでやっとエメトセルクはアゼムの中からゆっくりと萎えた自分の雄を抜くとアゼムはその焦燥感の残滓に身体を一つ震わせた。拡がってしまったその穴から白い雫が垂れるのを感じるとついさっきまで繋がっていたことを確かにしている。
その光景はエメトセルクから見てもまだ非常に淫らで眩暈がするほどに卑猥だ。また疼きそうになる熱を諫めてアゼムから離れると、
「ねえ、エメトセルク」
アゼムがエメトセルクを追い掛けるように上半身を起こして呼ぶと腕を掴んで耳元でそっと囁いた。
その言葉に思わずエメトセルクは目を丸めて少しだけ目元を赤らめてアゼムを見る。その顔は呆れているようにも見えるがいつものわがままに付き合うしかないかという諦めにも見えた。
しかしそれが嫌だというわけではない。
アゼムのわがままに付き合えるのは自分だけなのだから。
「……今夜だけだぞ、お前を甘やかすと常習化するからな」
ため息交じりの声がそう乾いた声で言う。
アゼムは笑ってエメトセルクの腕を掴みながら顔を上げると、エメトセルクはその嬉しそうな顔に顔を寄せた。
